ヤナーチェクのオペラ〈マクロプロス事件〉は、オペラの題材としては話の筋が複雑すぎると、ぼくは前回書いた。ただヤナーチェクは、その難しさを音楽とともに、うまく処理していた。
同じように、題材が複雑でオペラの題材として適さないと思うのが、フランツ・シュレーカーのオペラだ。
ぼくは以前、シュレーカーの〈はるかなる響き〉をベルリン国立オペラで体験している。その時は、とても美的な音色と和声が印象的だった。ただどういう話の筋だったかは、もう覚えていない。それ以上、何も残っていないのが現実だ。
今度はベルリン・ドイツ・オペラで、〈宝を探す男〉を観た。〈はるかなる響き〉から8年後の1920年に初演されている。シュレーカー絶頂期で、当時は大ヒット作となる。
ただユダヤ系の家族に生まれたシュレーカーの作品は、ナチス台頭とともに『退廃音楽』として上演されなくなる。
現在も、シュレーカーのオペラはあまり上演されない。それは、音楽の美的さと繊細さが融合しているのはいいのだが、それがむしろ、作品から強いインパクを奪っていて、印象に残らないからではないだろうか。
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〈宝を探す男〉の公演から、ベルリン・ドイツ・オペラ提供 "Der Schatzgräber", Regie: Christof Loy, Premiere am 1. Mai 2022 Deutsche Oper Berlin, Copyright: Monika Rittershaus |
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物語は、リュートの音で宝を探し出す吟遊詩人エリスと、吟遊詩人に恋する居酒屋の娘エルス、婚約者3人を殺害させてきたエルスを妻とすることでエルスの命を救った宮廷の道化の話だ。
吟遊詩人は、リュートによって森の中で見つけたネックレスを居酒屋で知り合ったエルスにプレゼントした。それが実は、王妃の失ったネックレスだった。
エルスの婚約者の殺害容疑で処刑される直前、道化の知らせで救われるエリス。その代わりに、王妃のネックレスを探すことを命じられる。王妃のネックレスを見つけられると困るエルスは、エリスのリュートを盗ませた。しかし慕っていたエリスと結ばれたエルスは、王妃のネックレスをエリスに渡してしまう。
釈然としないエリスは、その手柄としてナイトとなる。盗まれたエリスのリュートも見つかり、エルスの罪がすべて明らかとなる。エルスには火あぶりの刑が命じられるが、道化によって救われ、エルスは道化の妻とならざるを得なくなる。
道化とエルスは人里離れて二人だけで暮らすが、エルスにはもう余命いくばくもない。道化はエルスの愛するエリスを呼び寄せ、最後を二人だけにしたのだった。
この作品の問題は、ぼくが長々と書かざるを得なかった話の筋を見ればわかると思う。恋の話とはいえ、話の筋が簡単ではないのだ。
前半はほとんど、話の筋を進めるための説明に費やされる。それを追う方は、退屈させられる。ドラマは、後半にしか起こらない。
前半なしで、後半だけでもいいくらいに感じられる。でもその後半だけでも、シュレーカー音楽の美しさとダイナミックさは、十分に満喫できると思う。
シュレーカーの美的な音楽をとても繊細に描いてくれた指揮のマルク・アルブレヒトと、複雑な話をできるだけシンプルに演出したクリストフ・ロイに感謝したい。
2022年6月11日、ベルリン・ドイツ・オペラにて鑑賞。
(2022年8月23日、まさお) |