202411月11日掲載 − HOME − ぶらぼー! − オペラ
ベルリン・ジングアカデミーがドヴォルザークの⟪レクイエム⟫

「レクイエム」とは、「死者のためのミサ曲」とでもいおうか。モーツァルト、ヴェルディ、フォーレの作品がよく知られている。


ドヴォルザークという作曲家の作品となると日本では、交響曲9番⟪新世界より⟫が最もよく知られていると思う。ぼくにとっても中学生の頃から、クラシック音楽というと⟪新世界より⟫だけだったといっても過言ではない。


ドヴォルザークと宗教曲は、結びつかない人が多いかもしれない。しかし⟪スターバト・マーテル(悲しみの聖母)⟫は演奏されており、知られているのではないか。はじめての宗教曲の大作で、自分のこども3人を亡くした悲しみから書いた作品だった。


⟪スターバト・マーテル⟫のほぼ10年後に書いた宗教曲が、⟪レクイエム⟫だ。イギリス・バーミンガム音楽祭の依頼で書かれた。初演は1891年10月。ドヴォルザークは自ら、音楽祭で指揮している。ドヴォルザークが作曲家として認められ、数々の名誉を受けて絶頂期の時だった。


今回ベルリン・ジングアカデミーが取り上げてくれたので、この機会を聞き逃してはならないと思った。


ベルリン・ジングアカデミーというと、18世紀終わりに設立された合唱協会だとよく知られているのではないか。作曲家のフェリークス・メンデルスゾーンと姉の女性作曲家ファニーなど著名人が関係していた。しかし東西ドイツ分割で、協会も東西に分かれてしまう。西側の協会が本家で、東側の協会は東西分裂後に東ベルリンで設置された。


本家が過去の遺産管理で財務的に豊かなのに対し、東の協会は毎年、ベルリン市の審査を受け、助成金をもらっている。合唱団団員の会費とわずかな助成金で音楽活動を続けるのは、簡単なことではない。しかしこの厳しい環境で、東ベルリンの合唱団はベルリンの素人合唱団でも飛び抜けている。オラトリオ(聖譚曲)のスペシャリストであり、いつもたいへん貴重な作品も取り上げてくれる。


今回も東のベルリン・ジングアカデミーのコンサートで、東ベルリンのコンサートホールで上演された。


ミサ曲で、テキストはもちろんラテン語。民族的なメロディーでありながら、ラテン語で歌われることに違和感がない。その分素朴で、叙情的なところがある。それと同時に、ヴェルディの⟪レクイエム⟫のようにダイナミックなところが盛りだくさん。そういっても音楽全体に内面の静けさと安らぎがあり、作曲家としての熟成度が深く感じられる。


ベルリン・ジングアカデミーの常任指揮者のアヒム・ツィンマーマンは、テンポの変化と音の強弱をはっきりさせることで、作品のよさをうまく引き出していた。合唱団の指揮者には、オーケストラの音楽造りが疎かになってしまう指揮者が多い。しかしツィンマーマンはオーケストラに対しても、しっかりと指示が行き届いていた。


ソリストには、これから期待される若いプロの歌手が多かった。それぞれがいい声を持ち、しっかり歌っていたのも印象的だった。


すばらしい作品であり、とてもいいコンサートだったと思う。聞きにきたかいがあった。感謝、感謝。


(2024年11月11日、まさお)
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関連サイト:
ベルリン・ジンクアカデミーの公式サイト
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