2023年6月05日掲載 − HOME − ぶらぼー! − オーケストラ
マナコルダの音楽は何を聞いても新鮮に聞こえる

ぼくは、ポツダムの室内管弦楽団カンマーアカデミーの首席指揮者・芸術監督を務めるアントネッロ・マナコルダをバレンボイムの後任として、ベルリン国立オペラの音楽監督に推している。


今回早速、マナコルダとカンマーアカデミーの拠点であるポツダムのニコライホールで行われるコンサートに突入した。


演奏されたのは、シェーンベルクの『ナポレオン・ボナパルトへの頌歌』、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番(俗に「皇帝』といわれる)、交響曲第3番「英雄」。


実は、この3曲には「ナポレオン」という共通点がある。「皇帝」は、ベートーヴェンがナポレンを念頭に置いて作曲されたものではない。「皇帝」は作曲後の俗称で、ベートーヴェンがこの作品をヴィーンで書いている時に、ナポレオンがヴィーンに侵攻。ベートーヴェンは地下壕で作曲するなど、たいへん不自由な境遇に置かれた。


それに対して「英雄」は、ナポレオンを讃えるために作曲された。しかしナポレオンが皇帝に即位したことを知って、ベートーヴェンは激怒。献辞の書いてある表紙を破り取ったといわれる。


ピアノは、フランスのピアニストであるピエールローラン・エマール。


ここでは、ベートーヴェンの2曲について書いておきたい。


このコンサートを選んだのは、マナコルダがドイツ音楽の代表的な作品で、どういう音楽を聴かせてくれるのか、知りたかったからだ。ちょうどいい具合に、前回はベートヴェンの第6番を聞き、今回もベートーヴェンのプログラムだった。


ぼくはこの2つのベートーヴェンの作品を、たとえばカラヤンとベルリンフィルなどで何回も生で聞いている。でもベルリン国立オペラでヤナーチェクの『イェヌーファ』を聞いた時もそうだったが、今回はじめて聞いたかのように、とても新鮮に感じるのだ。


各章の主題となるメロディーは知っている。しかしこんなに生き生きとして、さらにダイナミックな音は聞いたことがない。


リズムがとても軽やかなので、テンポが早くても、音符の音一つ一つがはっきりしている。感心するのは、パート毎にそれぞれの音楽がはっきりと耳に伝わること。だから、パートからパートへの音楽の展開がよくわかる。


さらに驚かされるのは、オーケストラの音色がとても豊かで、変幻自在に音色が変わっていくことだ。『皇帝』第2楽章の出だしの旋律では、鳥肌が立つほど深い響きになっていた。


それに対して「葬送行進曲」といわれる「英雄」の第2楽章の出だしでは、逆にえっと思わされる。ここでは通常、主題の美しさに酔わされてしまいがちとなる。だがマナコルダはここをサラリと演奏させ、酔わさせない。


かといって、それに不満を感じることがない。主題が繰り返される毎に、微妙な変化があり、その展開の妙が聞いている側に十分な満足感を味わせてくれる。


マナコルダはベートーヴェンにおいて、管楽器とティンパニーに古楽器を使わせている。これは、故アーノンクールなどがベートーヴェンをバロック音楽的に演奏してきたことを継承しているのかと思うと、そうではない。


アーノンクールなどバロック派の演奏は、音がダイナミックになるが、音の余韻がなく四角く区切れてしまう傾向があった。しかしマナコルダのべートーヴェンは、滑らかなところは滑らかだし、角張らない。


むしろベートーヴェンが、バッロクに次ぐハイドンやモーツァルトの影響を強く受けていることを感じさせる。オーケストレーションがより巧妙になっているのもわかる。そしてベートーヴェンがブラームスでないことも、はっきりと感じられる。


同時に、ベートーヴェンの音楽がこれほどダイナミックだったのかと、これまで聞いた以上に強く受け止めることができた。


ぼくはとても清々しい気持ちで、帰りの電車でベルリンに向かった。


(2023年6月05日、まさお)
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ベルリン国立オペラ - バレンボイムの後任独断論
関連サイト:
ポツダム・カンマーアカデミーのサイト(ドイツ語)
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