2021年11月24日掲載 − HOME − 再エネいろは一覧 − 記事
電力システムに蓄電池は必要か?
再生可能エネルギーQ&A

スマートフォンや電気自動車は、蓄電池がなくては機能しません。再生可能エネルギーを利用して発電すると、発電電力量に大きな変動が出ます。だから、たとえば夜間風力発電で余剰電力が出ると、それを蓄電池に蓄電しておくこともできます。


そのための蓄電池施設については、本サイトで何回か取り上げています。それによって、電力システムに柔軟性が生まれます。


ただ問題は、電力システムにおいて電力を優先的に蓄電池で蓄電するようにしたほうがいいかどうかです。


答えは、「ノー」です。どうしてでしょうか。


最終的には、電気自動車の蓄電池も電力システムに統合して、大きな仮想蓄電池システムが構築されると思います。一般家庭に設置される蓄電池も、その仮想蓄電池網に統合されるのは間違いありません。ただこれは、電力需要の中でもピーク電力の需要に応じて、それに対応できるようにするための最終手段と考えるべきだと思います。


その場合、電気自動車の蓄電池と家庭用の蓄電池に投資する資金は、電力システムには発生しません。電気自動車の持ち主と一般家庭が、その蓄電池に投資して、蓄電池の使用量あるいは、蓄電池から給電した電気によって、そのための投資資金を回収します。


それ以外にも、電力システムには大型の蓄電池施設も必要になると思います。でもそれは、電力システムにとっては最も割高の解決策になります。


電力システムにおいて再エネを統合して再エネ100%化を目指すには、系統全体にいかに柔軟性を持たせるかが最も求められます。


まず最初に必要になるのが、発電電力量を柔軟に調整できる電源を確保することです。そのための電源になるのは、貯水池式水力発電。しかしこれは、既存のものの容量を拡大することで対応します。新設は、環境破壊になる恐れがあるからです。


ドイツでは、家畜の糞などを利用して、生物資源(バイオマス)を発酵させてメタンガス(バイオガス)を回収し、バイオガスを燃料にして熱電併給(コジェネレーション)し、発電電力量を調整する調整力として使っています。これについても、本サイトで何回も取り上げました。


さらに再エネ100%化までの過渡的な方法として、天然ガス発電を使います。ドイツがそれを戦略的予備力として確保していることについても、本サイトで取り上げました。


その次に取り組むべきなのが、エネルギー貯蔵です。しかしここでもまず、蓄電池以外の方法を優先させます。たとえば余剰電力で熱を発生させ、その熱(お湯)を地層のタンクに保管し、必要に応じて熱供給に使います。


あるいは、余剰電力で水を高い所にある貯水池にくみ上げて、必要に応じてその水を放水して発電できるようにします(揚水発電)。ただ揚水発電も環境を破壊する恐れがあるので、既設の容量を増大させるほか、新設には厳しい規制が必要です。


ドイツでは、夜間に風力発電された電力が余るので、その電気で水素を製造することが計画されています。特に洋上風力発電を水素製造の主体にする計画です。さらに余剰電力で空気を圧縮して地下などに保管し、その圧縮空気をガス発電に使います。そうすると、ガス発電の効率を高めることができます。ドイツではすでに、この種の設備がドイツ北部で1970年代に稼働しています。


これまでに挙げた蓄電池以外の方法を十分に整備することを考えた上で、送電網の整備状況と発電施設の分散状況に応して、必要な地域に大型の蓄電池施設を計画することを考えます。


以上挙げたのは、供給側における柔軟性です。その他にも、需要側が供給側の状況に応じて柔軟に需要を調整することが必要になることも考えられます。たとえば、洗濯機を自動時差稼働させることなどが考えられます。でもこれは、供給側に柔軟性を持たせることを優先させた後に計画するべきです。


発電ばかりを見ていると、どうしてもすぐに蓄電池が必要だと思ってしまいます。でもエネルギー全体を見て、エネルギーが必要となる分野(電気、熱、動力、水素など)においてお互いにエネルギーを融通させながら、どう効率よく利用すべきかを考えること(セクターカップリング)が必要になります。


(2021年11月24日)

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関連サイト:
環境シンクタンク、アゴラ・エネルギー転換のサイト(ドイツ語)
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