日本では昨年11月、一般海域での洋上風力発電を促進する「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律」が成立した。俗に洋上風力促進法ともいわれ、洋上風力発電を促進するために統一ルールを設け、投資を加速させるためのものだ。
同法のポイントは、3つあると思う。
一つは、政府が洋上風力発電を促進したい区域を指定すること。2030年度までに5つの促進区域を指定するという。設置する発電事業者は入札で決める。
次に、事業者の海域占有期間を最長30年間まで延長できること。
もう一つは、洋上風力発電による海域占有によって地元漁業者と海運業者との利害が衝突するので、それを調整する協議会を設置できることだ。協議会が設置された場合、関係者には協議会の決定を尊重することが義務付けられる。
促進区域を政府が指定して、発電事業者を入札で決めるのは、ヨーロッパですでに行われている。これは、それを真似たものと見られる。
ドイツの場合、洋上風力発電は主に引き潮時に現れる海面から200カイリ(約370キロメートル)離れた排他的経済水域(EEZ)といわれる海域において行うことが規定されている。これは、ドイツ沿岸の海が遠浅なのと、沿岸地域の景観を考慮してのことだ。その点、沿岸に近い所に設置されているデンマークの洋上風力発電とは異なる。
洋上風力発電の促進区域は、国の国土整備計画の枠内で指定される。その場合、海運状況、海底資源の採掘、海底ケーブルや海底ガス管の状況、海洋研究、漁業、自然保護(渡り鳥、海洋生物)などが考慮される。
連邦制のドイツでは、国土整備計画は州の管轄。しかし排他的経済水域では州の管轄範囲を超えるため、その区域についてだけ国が国土整備計画を担当する。
洋上風力発電について立法化するに当たり、ドイツはこれら洋上風力発電に係わる問題について事前調査するため、海洋において何年にも渡って研究プロジェクトを実施してきた。その結果を基に、洋上風力発電に関するルールが規定された。
その辺、日本ではどうだったのかと気になる。これまでの日本政府のやり方からすると、各国の動向だけを調査して、そこから日本に合うように立法化したのではないだろうか。
日本周辺の海域は深い。津波の心配もある。そのため、日本では発電設備を海底に固定せずに浮かせる浮体式洋上風力発電しか可能性はない。だが世界では、浮体式の設備はまだ試験的なものしか動いていない。
ドイツで洋上風力発電が促進されるのは、再生可能エネルギーに出遅れ、大型投資が可能な大型設備を必要とする大手電力会社を救済するためでもある。日本でも洋上風力発電促進の裏には、同じ思惑があると思えてならない。
ただでさえコスト高の洋上風力発電。浮体式ではさらにコストが膨らむのは目に見えている。その負担は、電気料金として消費者が負わされるだけだ。
洋上風力発電の抱える課題について、何回かに分けて連載したい。
(2019年3月23日)
洋上風力発電の課題
(2)港湾基地 (2019年3月30日)
(3)命がけの作業員 (2019年4月27日)
(4)漁業権は保護されない (2019年5月05日)
(5)国が指定する洋上風力発電区域 (2019年5月11日)
(6)海底ケーブル (2019年5月25日)
(7)発電施設の寿命 (2019年6月01日)
(8)構造上の問題 (2019年6月22日)
(9)必要なのか? (2019年7月08日)
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