2019年6月01日掲載 − HOME − 再エネ一覧 − 記事
洋上風力発電の課題(7):発電施設の寿命

廃炉の取材で、ドイツ北東部のグライフスヴァルト原発にいった。


原発のタービンと発電機などの入っていた機械棟は、原発周辺の再開発で工業団地の一部として解放されていた。機械棟の一部には、洋上風力発電製造事業者が入っているという。それはぜひ取材したいと思い、廃炉の取材が終わった後に工業団地にいった。


原子炉8基用に建設されていた機械棟は、横幅1キロメートルもある。その約半分近くが、洋上風力発電の円柱型の基礎上部を製造するのに使われていた。主に、バルト海に設置される洋上風力発電施設用だという。


機械棟は内部の機器、配管、構造物が撤去され、大きなホールとなっていた。内部では、基礎上部の円柱を溶接する作業が行われている。塗装は、その横に新設された大きな工場で行われる。


その時に気付いたのは、円柱の鉄板が薄いことだ。ドイツ沿岸は遠浅なので、ドイツでは着床式しか採用されない。いくら遠浅といえ、この肉厚(鉄板の厚さ)でどのくらい耐久性があるのかと疑問に思った。


この肉厚で、耐用年数は何年として設計されているのか、案内してもらった工場長のレーデルさんに聞いてみた。


レーデルさんは、「20年だ」といった。


発電された電気の買取り価格が固定価格買取り制度(FIT)によって保障されている期間しか、考えられていないということだ。


陸上風力発電においても、設備をまだ稼働できるのに、FIT期間の20年を過ぎると、取り壊して東欧などに中古で転売することがよくある。そのまま稼働させるよりは、新しい設備を設置してFIT制度の恩恵を受けたほうが、電気を高く買い取ってもらえるからだ。


洋上風力発電でも、同じ論理だということだ。FIT制度を目当てに設置するというわけだ。わざわざ海洋の環境を破壊してまで設置するのに、それだけとは腑に落ちない。


その後、どうなるのかも気になる。レーデルさんに、「その後の撤去は、どうするのか」と聞いてみた。


レーデルさんは、「よくわからない」といった。製造事業者の問題ではないという感じだった。


海洋での利用だけに、発電施設の撤去をどうするかまで考えないといけないはずだ。建設許認可を得る段階で、撤去コンセプトを提示することになっているはずだ。


ドイツは、バルト海の海底にパイプラインを設置して、ロシアから天然ガスを輸入している。その第2パイプラインが、現在建設中だ。


パイプラインの場合は、耐用年数は50年。別の機会に、その後の撤去はどうするのかと質問したら、建設許認可を申請する時点でそのコンセプトは提示されているという。だが50年後には、パイプラインに海洋生物が付着するなど、パイプラインはすでに海洋環境の一部になっている。


そのため、撤去しないほうが海洋環境を破壊しないとも説明された。


洋上風力発電の基礎部分についても、同じことがいえるはずだ。しかし、円柱をそのまま海底に置いておくわけにもいくまい。


何とまあやっかいなことをはじめてしまったのか、というしない。


(2019年6月01日)

洋上風力発電の課題
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(2)港湾基地 (2019年3月30日)
(3)命がけの作業員 (2019年4月27日)
(4)漁業権は保護されない (2019年5月05日)
(5)国が指定する洋上風力発電区域 (2019年5月11日)
(6)海底ケーブル (2019年5月25日)
(8)構造上の問題 (2019年6月22日)
(9)必要なのか? (2019年7月08日)
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