2021年11月27日掲載 − HOME − 再エネ一覧 − 記事
ドイツ新政権、脱石炭前尾倒しはポピュリズム

2021年秋の連邦議会選挙の結果、ドイツでは社民党と緑の党、自民党の3党による中道左派政権の成立に向け、連立交渉が続けられてきた。3党は選挙から70日間余り交渉を続け、2021年11月24日、合意された連立協定を公表した。


それによると、露天掘りなどの石炭産業と石炭火力発電をこれまで「遅くとも2038年」までに終えるとされていた脱石炭を、2030年までに前倒しすることが合意された。ただし、2030年までに脱石炭を実現するのが「理想的」と、確実に2030年までに脱石炭を実現するという表現とは違い、柔軟な表現となっている。


これは、選挙戦で「2030年までに脱石炭を実現する」としていた緑の党の意向をくんだもの。だが2030年までに、すべての石炭火力発電所を停止させることを望む緑の党青年部などでは、表現が脆弱として反発もある。


ただぼくは、この「2030年」という数字はポピュリズム的だと思っている。それはなぜか。


ドイツの二酸化炭素排出量は、世界全体の2%を占めるにすぎない。緑の党は地球の温暖化を産業革命後から1.5度以下に止めるには、2030年までに脱石炭しないとダメだという。でも二酸化炭素の排出量が世界の2%にすぎない国において、脱石炭を2030年に前倒ししようが、2038年のままにしようが、地球の温暖化対策としてどれほど効果に差があるのだろうか。


2030年までに脱石炭を要求する緑の党と(西)ドイツの環境団体はこれについて、合理的な説明をしたことはない。


ドイツの石炭委員会が2020年はじめに脱石炭を遅くとも2038年までにするとして妥協したのは、ドイツ東部の状況を配慮してのものだった。ドイツ東部では、ドイツ統一後の産業の崩壊で、たくさんの人が失業し、構造改革を余儀なくなれた。その構造改革はまだ終わっていない。その状況において、脱石炭によってここですぐに新たな構造改革を求めるのは、社会的に酷すぎるとの判断があったからだ。


さらに、ドイツが90年代に二酸化炭素の排出量を大幅に削減できたのは、ドイツ東部における産業崩壊のおかげだった。石炭産業のあるドイツ東部州では現在、風力発電が普及し、発電における再生可能エネルギーの割合が高い。ドイツ西部の石炭産業地域において、再エネ率がまだ低いのとは大違いだ。


脱石炭2038年という妥協案は、こうしたドイツ東部市民の特殊事情を加味して、特別扱いにした結果だった。そのため、2030年以降に最終停止される石炭火力発電所の多くは、ドイツ東部に集中している。


西ドイツ政党である緑の党と西ドイツを地盤とする環境団体は、こうした歴史的な状況とドイツ東部市民の過去の業績を無視して、頭ごなしに2030年までの脱石炭を主張してきた。これは、西ドイツだけから見た偏った要求だ。ぼくには数字だけで辻褄を合わせようとするもので、とてもポピュリズム的な要求に映る。


新政権は、脱石炭の前倒しによってより影響を受ける東部ドイツ市民に対し、なぜ脱石炭を2030年までに前倒ししないといけないのか、合理的に説明するべきだ。そうしないと、市民の問題に寄り添う社会的で、真意な政治ではない。それでは市民はついてこず、カーボンニュートラルの実現に向け、市民の協力と連帯を得ることはできない。


選挙戦中、気候変動対策は社会的でなければならないと主張していたのは誰か。緑の党だったはずだ。それは単に、リップサービスにすぎなかったのか。


脱石炭前倒し問題では、緑の党を中心にして新政権が市民に対して、なぜ前倒しが必要なのか、真意に説明しなければならない。そうでなければ、脱石炭を前倒しする連立協定は、選挙戦中脱石炭2030年を主張してきた緑の党の共同党首で、首相候補だったベーアボック次期外相と、緑の党青年部を満足させるだけのものでしかなくなる。


(2021年11月27日)
記事一覧へ
関連記事:
偏った脱石炭批判
ドイツの脱石炭合意は約束破り
ドイツ政府、脱石炭に向けてロードマップを確定
関連リンク:
社民党、緑の党、自民党の連立協定(ドイツ語)
この記事をシェア、ブックマークする
このページのトップへ