2022年8月30日掲載 − HOME − 脱原発一覧 − 記事
ザポリージャ原発の砲爆と安全について

ウクライナのザポリージャ原発がロシアの管理下に置かれ、まもなく6カ月になる。


この間、原発への攻撃報道が続いている。ロシア軍が原発内を武器庫にしているとか、ロシア兵によって原発職員が地下に拘束され、暴力を受けているという報道もある。


ただ原発を攻撃しているのが、ウクライナなのか、ロシアなのかはっきりしない。


ウクライナ側はロシアによる攻撃とし、ロシア側はウクライナの攻撃だと主張する。この場合、どちらの情報も信用してはならない。


ロシアのメディアは、ロシア側の情報しか発信しないだろう。問題はむしろ、西側のメディアにある。たとえばドイツのメディアの中には、ウクライナ側の情報しか発信しないメディアも目立つ。


第三国のメディアなら、両者の主張を報道するのが、本来の報道の姿といわなければならない。


テメリン原発
チェコのテメリン原発では、旧ソ連で開発されたザポリージャ原発と同じロシア型加圧水型炉(VVER-1000/320、英語翻訳ではWWER)が稼働している

もう一つ情報がはっきりしないのは、どこに着弾しているかだ。ニュースによっては、衛星通信からの空撮で、着弾位置を示す写真が公開される場合もある。それを見ると、着弾位置は原子炉からかなり離れている。


それでいて、放射線を測定している映像も流れるのは、なぜかのか。その測定が、いつ、どの位置で行われたのかは示されない。それでは関連性のない映像で、フェイクである可能性もある。


一般視聴者は現在、いろんな点で報道によって踊らされ、不安を募らされていると思う。


過去においても、ある原発で火事があるだけでよく、危険だとするニュースが流れていた。ちょっとした程度の火事なら、放射汚染の可能性のある原発の管理区域外であれば、それほど心配はない。


もちろん、火事によって爆発など連鎖反応が起こらなければの話だが。それについては、新しい情報を追っていくしかない。


国際原子力機関(IAEA)の調査団が、ザポリージャ原発に入ることになった。


IAEAはこれまで、ザポリージャ原発の安全に問題はないと発言してきた。でもIAEAがなぜ、そう断定できるのかは報道されない。


それは、原発の管理区域内にはIAEAの監視カメラが何箇所にも設置されているからだ。IAEAはそのカメラによって、管理区域内の職員の異常な行動や緊急事態などを把握できる。


とはいえ、第三者機関であるIAEA調査団が原発内に入るのは、この事態においては絶対に必要だ。できればIAEA調査団から、誰か常駐できる体制も考えてほしい。


もう一つは、ザポリージャ原発が送電網から切り離され、外部電源を失う問題だ。その場合、原発の冷却系統が機能せず、核燃料が加熱して、フクシマ原発事故の二の舞になりかねない。ザポリージャ原発の非常電源用ディーゼル発電機は、40時間程度しか稼働しないといわれる。


この問題では、フクシマのトラウマに惑わされてはならない。


まず戦争状態なので、外部電源が破壊されたのかどうかが、重要となる。単に切り離されただけなら、問題はない。いつでも、外部電源に接続できる。


たとえ外部電源が破壊されても、ザポリージャ原発には20基の非常電源用ディーゼル発電機が用意されている。原子炉が6基あるので、原子炉1基当たり、最低3基のディーゼル発電機が割り当てられている勘定だ。原子炉1基当たり、3重に非常電源が保証されていることになる。


ただ旧ソ連製の原発なので、原子炉毎にディーゼル発電機が割り当てられているのではなく、全体で20基のディーゼル発電機が横に並んでいるだけの可能性が高い。


その場合、ディーゼル発電機施設が攻撃されると、すべてのディーゼル発電機が破壊される心配もある。施設の一部しか破壊されなくても、非常電源をまったく供給できない可能性も発生する。


その場合でも、原子炉が破壊されず、原子炉を1基でも稼働させることができれば、発電はできる。その電気を冷却系統に供給すれば、核燃料を冷却できるはずだ。


外部電源の問題でも、非常電源用のディーゼル発電機が稼働させたのかどうかの報道がない。その点も、はっきり把握して報道してほしい。


メディア側は、原発に関して十分な知識がないまま報道していることが多い。その結果、危険を煽るだけの過激な報道になってしまう危険が高い。


異常な事態になるほど、過激な報道の可能性が高まる。報道ニュースを受け取る側はそれを考え、冷静に状況を把握して対応したい。


(2022年8月30日)
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関連サイト:
国際原子力機関(IAEA)の公式サイト(英語)
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