2022年1月18日掲載 − HOME − 脱原発一覧 − 記事
原発を短期に出力調整するのは邪道

2022年1月14日の日本経済新聞は、三菱重工が発電出力を機動的に十数分で切り替えられる原子炉を開発すると報道した。


再生可能エネルギーを使った発電方法では、天候によって発電電力量が激しく変動する。日本のエネルギー基本計画でも再エネを主流にすることを唄っており、日本でも今後、再エネが発電において主流になることが考えられる。


それを見込み、再エネ対応を売りにしようとする試みだと見られる。


原発は原則として、定格出力運転によるフル稼働を原則とする。だから原発は、ベースロード電源になっているともいえる。それを再エネに対応できるようにするには、発電出力をいつもで簡単に調整できる原子炉が求められる。


現在、再エネに対応できることを売りとする小型炉の開発が注目されている。出力調整可能な中型炉や大型炉ができると、小型炉に強力な競争相手が出現することにもなる。


それをどう技術的に解決するのかは、ここでは検討しない。ただ日経の記事の頭だけを読んでも、「本気?」と疑わざるを得ない。


原発は、燃料コストが安い。それに対して、発電コストのうち固定費がとても高い。それは、原発の建設に巨大な投資が必要だからだ。さらにメンテナンスにも、たくさんの費用がかかる。そのコスト構造において燃料コストの安い原発の利点をいかすには、出力を変えずに、いつもフル稼働で発電する。定期検査などによる停止期間もできるだけ短くして、稼働率を上げることが求められる。


火力発電など燃料コストの割合の高い発電方法では、発電出力を落とすと、燃料消費も少なくなる。それに伴い、全体の発電コストも下がる。


それに対して、原発のように固定費の割合の高い発電方法では、発電電力量に関わらず、固定費はいつも同じだ。発電出力が落ちて発電電力量が少なくなると、1kWhあたりの発電コストがより高くなる。


原発ではそれを避けるため、出力(原子炉の熱出力をベース)を一定にしてフル稼働させ、稼働率を上げるようにするのだ。


それにも関わらず、原発の発電出力を調整できるようにするとは、原発の利点を生かす発電方法を無視することになる。それでは、発電コストがより高くなるだけだ。


発電出力を調整できるようにすれば、そのための安全制御も必要になる。原発の安全性により多く投資しなければならない。それも、発電コストを引き上げる要因だ。


それで、競争力があるのだろうか。


独電源構成推移図
グラフは、ドイツのある祭日における発電電源構成の推移を示す。黄色が太陽光発電、青色が風力発電の発電電力量。黄色と青色の部分が、いかに急カーブに変化しているかがわかる(出典:ドイツ電事連(BDEW)、ドイツネットワーク機構(Bundesnetzagentur))

三菱重工の意向では、十数分で発電出力を切り替えることができるようになるという。ここで「切り替える」ということばが使われている。それも気にかかる。


「切り替える」とは、発電出力にいくつかの段階があって、ギアチェンジのように、発電出力をいくつかの段階に切り替えることができるようにする。そういうことではないかと思う。


上図は、ドイツのある祭日における発電電源構成の推移を示している。黄色が太陽光発電、青色が風力発電の発電電力量だ。再エネによる発電では、機械のように段階的に発電電力量が変動することはない。その変動曲線は、とてもランダムだ。


原発の出力を柔軟に調整できず、段階的にしか行えないとすると、再エネのランダムな変動には、原発だけでは対応できない。その他の発電方法や蓄電技術が必要になる。


ここまでに挙げた原発の発電コストと段階的な発電出力の切り替えの問題は、小型炉に対しても同じことがいえるので注意されたい。


さらに一つは、出力調整するスピードの問題だ。三菱重工は、十数分で出力調整できるようにするとする。ぼくには、十数分では反応が遅すぎると思う。


上図を見ればわかるように、再エネによる発電電力量は急速に変動する。十数分程度のスピードでは対応しきれないと思う。


そういうと、系統監視システムにおいても、再エネによる発電電力量を予測する最小単位は15分程度ではないかと反論されるかもしれない。最短で15分前にしか、再エネによる発電電力量が予測されていないということだ。


だから、十数分の切り替えで問題ないのだろうか。


ぼく自身が、ドイツの高圧送電会社Tennetの系統監視室においてオペレーターから聞いたところでは、再エネの変動の問題は、その変動のスピードがとても速いことと、変動量にもとても大きな差があることだといわれた。


それに対応して系統を安定させるには、すぐにでも再エネの変動に対応できる発電方法が必要だといわれた。発電出力の調整に十数分もかかるのは、遅いということでもある。


もう一つの問題は、系統監視室のオペレータが指摘した再エネでは変動量がとても大きいという問題だ。極端にいうと、再エネだけで電力需要をすべて満たすことができる時もある。あるいは再エネでは、電力需要のほとんどを満たせない時もある。


将来の電力システムでは、そういう場合にも備えておかなければならない。日本のエネルギー基本計画はエネルギーミックスを唱え、原発の割合を20%代に維持するとしている。


フランスのように原発の割合がとても高い場合は、出力を調整する意味はあるかもしれない。そうでなければ、省エネは考えず、電力を何が何でも使い続けるしかない。


でも日本では、再エネの割合が原発の割合よりも多くなる上に、原発割合は20%余りにしかならない。それでいて、出力調整できるようにして効果を期待できるのだろうか。


ぼくは、その意味はないと思う。その程度では、上図のような再エネの大きな変動には量的に見ても対応できない。


こうしてみると、ぼくには三菱重工の試みが邪道に思えてならない。


(2022年1月18日)
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関連サイト:
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