2021年12月14日掲載 − HOME − 脱原発一覧 − 記事
学習効果を期待できない原発

英国のヒンクリーポイント原発において、中仏が資本投資してC原発2基を建設することになったことを覚えているだろうか。


その条件は、原発で発電された電気に固定価格買取制度を導入して高い建設費を回収することができるようにすることだった。


固定価格買取制度(FIT制度)というと、再生可能エネルギーの固定価格買取制度のことを知っている方も多いと思う。それは、電力会社(正確にいうと、送電会社)に再エネで発電された電気を市場価格よりも高く買い取ることを義務付け、再エネ発電施設への投資意欲を刺激する再エネ促進措置ともいえる。


新しい発電方法では当初、従来の発電方法と対等に競争することができない。その不利な点を補わないと、新しい発電方法は普及しない。再エネのFIT制度は、再エネ発電が従来の発電方法と対等に競争できるようになるまでの過渡的な支援措置だともいえる。


それに対して、従来の発電方法に属するはずの原発になぜFIT制度が必要なのだろうか。


独ブロックドルフ原発
ドイツのブロックドルフ原発。同原発は最終的に、今年2021年12月末までに停止され、廃炉となる。ドイツ北部のエルベ川沿いで撮影

それは、原発が従来の発電方法にも関わらず、新しい原発を建設しても、電力市場における取引価格で電気を取引するだけでは、新しい原発の建設費が高すぎて、新原発に投資してもその投資額は回収できない。それでは、原発に投資する意味がない。


原発は従来の発電方法だが、何らかの補助制度を設けない限り、原発で発電してもビジネスにならないということでもある。英国での原発FIT制度は、それを改めて明らかにしたにすぎない。


それに対して、再エネのFIT制度ではなぜ「過渡的な」支援措置で済むのだろうか。


それは、再エネによる発電のように新しい技術を導入すると、その技術が普及するにしたがって学習効果が生まれ、コストが低減されていくからだ。その結果、新しい技術は従来の技術と対等どころか、それよりも競争力を持つようになる。


それが、経済における技術革新のプロセスだともいえる。


それではなぜ、原発が新しい技術ではないのに、FIT制度などの補助措置がないと、建設するだけの魅力がないのか。


それは、原発という技術そのものが競争力のない割高のものであるうえ、技術の普及による学習効果が期待できないからだ。


学習効果がないといったら、うそになる。たとえば原発の安全性を強化することに、学習効果がもたらされる。しかしそれは、コストを低減する効果をもたらさない。むしろ、コストをより引き上げる要因になる。


こうして比較すると、再エネFIT制度が未来指向なのに対して、原発FIT制度が過去への依存指向であることがわかる。


日本の原子力資料情報室の松久保事務局長さんの発表によると、日本の原発ではkW当たりの建設単価が、1980年に20万円前後だったのに対し、2000年以降は30万円台から40万円台に分散している。1990年代には、50万円を超えたものもあった。


それも日本では、1974年から2020年までの発電に係る研究開発費1570億ドルの66%が原発のために投じられていた。国際エネルギー機関(IEA)加盟国30カ国においては、同年期の原発のための研究開発費が発電全体の研究開発費(7796億ドル)の44%だったのとは大違いだ。


原発の研究開発費だけで見ると、日本の研究開発費は約1036億ドル。IEAでは3430億ドルとなる。日本だけで、IEAにおける原発研究開発費全体の3分の1近くを投じてきたことになる。しかしそれでも、原発の建設費を低減することにはまったく貢献していない。


それは原発を続ける限り、避けてとおることのできない問題だ。


原発のこの現実を見ると、原発はいくら割増していいように評価しても、未来指向とはいえない。それに依存するのは、過去に築かれた既得権益構造を維持するためだけのものであることがよくわかると思う。


原発は、一般市民と次の世代の負担になるだけだ。


(2021年12月14日)
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関連サイト:
原子力資料情報室
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