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ドイツの核のゴミ(高レベル放射性廃棄物)の最終処分場は、住民参加の下で選定しなければならない。それを規定しているのが、最終処分場選定法だ。住民参加をベースに選定作業が開始されているのは、本サイトの脱原発の項でも何度となく報告している。
最終処分地選定法は2031年までに国会決議を終え、選定を終えることを目標とするよう規定している。
しかし現在の予定では、そこまでに最終処分地が決定している見込みはまったくない。それは当初からわかっていたはずなのに、なぜ無理な目標を設定したのかよくわからない。
今のところは2027年末までに地上調査をする地域を選定し、地上調査後に地下調査をする地域を2、3箇所に絞って調査する。その後に最終処分候補地1箇所が提案され、国会決議によって最終処分地が最終決定される。
国から最終処分候補地の選定作業を委託されているドイツ最終処分機構(BGE)は現段階では、候補地を最終選定できるのは2060年以降に、最悪の場合は2070年中頃まで延びるとしている。
この問題も含め、ドイツの作業の進捗状況については、サイトの記事「ドイツ、最終処分地候補選定の進捗情報を公開」などで何回も報告してきた。
最終処分候補地選定に時間がかかるのに伴い、最終処分する前に必要な中間貯蔵期間が長期化するという問題も発生している(「中間貯蔵の長期化に対策を講じなくては」)。
しかし戦争やテロが危惧される現在の世界情勢では、地上で核のゴミを中間貯蔵するのはより危険になっている。さらに、ドイツの中間貯蔵施設の運転許可は40年に限定されているので、このままでは最終処分する前に中間貯蔵施設は使えなくなる。その期間を延長するには再審査が必要だが、現在の危険な世界情勢の下で中間貯蔵施設をそのまま維持していっていいのか、とても疑問だ。中間貯蔵の安全を考えると、既存の中間貯蔵構想では安全だとはいえない可能性もある。
さらに、最終処分地の選定が2060年代、2070年代にまで延びてしまうのは、原子力発電を使っていない次の世代に選定の最終決定を委譲してしまうことになる。それで、原子力発電に依存してきた現世代は責任を果たしたことになるのか、甚だ疑問だ。それでは、最終処分候補地の選定を民主主義的に行なうことにならないのではないかという疑問も生じる。
最終処分候補地の選定は、安全第一に行われなければならない。しかしそれによって選定に時間がかかりすぎると、新たな問題が発生する。
そのためドイツでは、最終処分地の選定に関した新たな議論が起こっている。選定手続きを最適化して、候補地を提示する時期をもっと前倒しできないのか。こうした意見が、たとえば政治においても各州の環境大臣会議などから出てきた。
ここで問題になるのは、どうすれば選定手続きを最適化して時間を短縮できるのか、選定作業の時間を短縮して最終処分候補地の安全性を十分に調査できるのかと、時間を短縮して法的に規定されている住民参加による選定が十分機能するのかどうかだ。
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地下調査のための地下坑はこんな感じ。地下約1000メートルのゴアレーベン地下調査坑から。ここでは、地下層は岩塩だ |
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最終処分地選定法は、文献調査などで地上調査を行う地域を最高10地域までに絞り(第1段階)、地上調査(第2段階)と地下調査(第3段階)を経て、最終処分候補地を選定するよう規定している。第1段階の調査は2027年末まで行われ、2028年から第2段階の地上調査がはじまる予定だ。
問題は、地上調査と地下調査に時間がかかることだ。地上調査は、電磁波や超音波によって地層の状況を把握するほか、ボーリングによって地層のサンプルを採取して、地層の状態をよりはっきりさせる。地下調査では、実際に地下坑を掘って地下で地層の状態を調査する。
調査で問題となるのは、一つに土地の利用許可を取得しないといけないこと、さらに調査のために環境アセスメントなどいろいろな環境規制を守らなければならないことだ。それぞれの手続きにも、たいへんな時間がかかる。
ドイツ環境省の担当責任官は、2025年11月に行われた住民参加のイベント「第4回最終処分地選定ファーラム」において、第2段階と第3段階を一緒にして、第3段階の地下調査をオプションにするべきではないかと考えていると報告した。その他にも、法的な手続きを簡素化することも考えているという。
つまり、地上調査で地層の状態を十分に把握できたと確信できれば、時間のかかる地下調査なしに最終処分候補地を提案できる可能性をつくろうという試みだ。
しかし、地下調査なしで十分に安全性を調査、評価できるのか。たとえば、地下調査をしないまま候補地を決定したが、実際に掘ってみると地上調査の結果と違い、最終処分には十分に適さないことが判明する可能性もある。その場合調査をどの位置に戻すのか、その判断も難しい。それでは、余計時間がかかる可能性もある。
地下調査をなくした場合に、法的に規定された住民参加が十分に確保できるのかも問題だ。地上調査と地下調査がはじまると、第一段階からの調査結果に対して再審査を申請する権利が住民に発生する。訴訟になる可能性もある。
選定作業を短縮して、住民に対して再審査の申請や提訴に十分な時間が与えられるのかも問題となる。
最終処分候補地の選定時間を短縮する意義はある。しかしそれによって、いろいろな問題が発生してくることもわかると思う。
このジレンマをどう解決すべきなのか。2025年11月に行われた住民参加のイベントでは、画期的なことが起こった。
ドイツ環境省が最終処分地選定法の改正問題に関して、まだ省内で十分に検討せず、関連省庁にも報告されていないにも関わらず、担当部の責任者が現段階で思案されている改正試作案を公の住民参加のイベントの場で公然と市民に報告し、市民と対話して市民と議論したのだ。
これには、イベントを企画、計画した市民の代表とイベントに参加していた市民も環境省の対応に感謝し、お互いに加熱しない、たいへん真面目な議論が行われた。
最終処分地選定法の改正は、来年2026年中に成立させ、施行させなければならないと見られる。環境省担当部の責任者は、それまでにまだまだ市民と対話して議論し、改正最終案を確定させたいとする。
最終処分地の選定を住民参加で行うのは、至難な実験である。それぞれが対話して学びながら、進めるしかない。住民参加の種が蒔かれ、一つの芽が出てきた瞬間だったと思う。
こんなことは、今の日本で考えられるだろうか。
(2025年11月25日)
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