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ドイツの核のゴミ(高レベル放射性廃棄物)の最終処分候補地の選定作業については、本サイトでいろいろ書いてきた。しかしプロセスが複雑なので、よくわからないところもあると思う。ここで選定プロセスがこれからどう進むのか、簡単にまとめておこうと思う。
国から最終処分候補地の選定作業と最終処分場の建設と運用を委託されているのが、国営企業のドイツ最終処分機構(BGE)だ。ドイツ環境省下の国の機関ドイツ放射性廃棄物処分安全庁(BASE)は、BGEの作業を監督、管理し、選定プロセスが住民参加の下で行われるのをサポートして監視する。
ここで住民参加とは何かが、疑問となる。簡単にいうと、選定プロセスを一般市民である住民に対してオープンにして透明性を持たせるほか、住民の意見を取り入れて選定プロセスに反映させ、最終処分地選定に対して住民のアクセプタンスを得ることを目的にしているとでもいえるかと思う。
住民参加を目的とするイベントはすべて、住民参加のイベントで一般市民の投票によって選出された市民の代表が企画、計画し、BASEの物理的、金銭的サポートを得て実施される。
現在実施されている住民参加のメインイベントは、「最終処分地選定ファーラム」といわれるイベントだ。これは、最終処分候補地の選定作業を規定する最終処分地選定法には規定されていなかったが、市民代表の要望で現在、毎年開催されている。
BGEは2020年、文献調査などからドイツ全土で最終処分地の候補となりうる地域を中間発表した。それは、ドイツ全土の54%に相当した。
その中間発表について一般市民に説明し、一般市民が質問するほか、意見を述べるイベントは、「中間発表地域専門会議」といわれた。専門会議も市民による準備委員会が設置され、市民によって選ばれた市民の代表によって準備、計画された。専門会議は2021年に3回開催されている。
次に最終処分地選定法が規定していた住民参加のイベントは、地上調査を行うとして選出された地域で行う「地域会議」だった。しかし、地域会議は2028年にならないと開催されない。
専門会議と地域会議の間がかなり開くことになる。専門会議の準備員会の市民代表が、それでは一般市民の最終処分に対する関心が途切れてしまうと危惧し、2つの会議を橋渡しする目的で発案されたのが「最終処分地選定ファーラム」だった。
フォーラムを計画するのも一般市民から選出された市民代表(フォーラム計画チーム)で、フォーラムの開催中に毎年投票があり、チームの委員が新たに選出される。再選に限度は設けられていない。
フォーラムを準備する市民は、専門的な知見のある代表2人、一般市民の代表2人、自治体の代表2人、市民団体の代表2人、35歳以下の市民代表最低2人(現在3人)で構成される。フォーラム計画チームの会議はオンラインで公開され、視聴者は質問したり、意見を述べることもできる。
現在進行する選定作業は最終処分地選定法が規定する第1段階で、中間発表で発表されたドイツ全土54%の地域を最終処分に対する適正をD(適さない)、C(あまり適さない)に分類して絞っていくことだ。残ったものをさらにB(それなりに適する)、A(適する)に分類し、Aに選出された地域から、地上調査を行う地域が最高10カ所まで提案される。
それが2027年末までに提示され、第1段階が終了する。最終処分地選定ファーラムは2027年まで開催されると見られる。
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地下約1000メートルにあるゴアレーベンの地下調査坑に入るには、竪坑上にある施設(写真まん中の四角い塔)からエレベーターで降りる。地下層は岩塩だ |
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最終処分地選定法は第1段階が終わると、第2段階において地上調査を行うほか、BGEによって地上調査を行うと提案された地域において「地域会議」を開催することを規定している。地域会議は2028年からはじまる。
地域会議は、総会と住民代表委員会、専門会議地域代表委員会で構成される。
地域会議の具体的な活動内容は地域会議自体が決定するが、最終処分地選定法は地域会議について以下のように規定している。
地域会議の総会には、16歳以上の地上調査を行う地域のすべての住民とそれに隣接するすべての住民が参加できる。地域会議総会は、その地域の住民の代表委員を最高30人まで選出する。ただし住民代表委員会は、住民の代表、自治体の代表、地域の市民団体の代表それぞれ3分の1で構成されなければならない。
代表委員の任期は3年で、再選は1回しか認められない。
住民代表委員会は、地域会議の事務局を設置するほか、専門的なことに関して専門家の意見を聞くこともできる。そのための費用は、BASEが負担する。
さらに各地域会議は、住民代表委員会の委員を専門会議地域代表委員会に派遣し、各地域で起こっている問題や、専門的な知見に関して情報交換し、それを各地域会議に反映させる。専門会議地域代表委員会と事務局は、BASEに設置される。
専門会議地域代表委員会には、最終処分候補地となる地域ばかりでなく、中間貯蔵施設のある地域の代表も参加する。専門会議地域代表委員会に参加できる委員は、全体で30人までとなっている。
地域会議では、BGEによって提案された地域に関して作成された調査資料報告書を検討し、疑義ないし問題があると認められる点に関し、BASEに再審査を申請するのが一番重要な役割となる。代表委員会はそれに関して、常に地域住民に情報を公開するほか、地域の再開発構想についても議論する場を設ける。
再審査申請はBASEによって審査され、それが正当と認められると、BGEは当該資料を修正しなければならない。BGEが提案した地域に関する調査資料報告書に問題、欠陥がないと確認されると(BASEによるBGE資料報告書の監視義務については別途記載する)、ドイツ連邦議会(下院)が地上調査、地下調査を行う地域を決議する。連邦議会の決議がない限り、地上調査、地下調査は行われない。
第2段階に入っても、地元地域の住民が納得しない限り、地上調査が行われないということでもある。なお地下調査を行う第3段階に残った地域では、地域会議が継続される。
地域会議は、住民参加で最終処分候補地選定プロセスを進める上でとても大切が機関でる。ただはじめての試みであり、国の側にも住民の側にも、そのノウハウがまったくないのも事実。しかし前述したこと以外、最終処分地選定法は何も規定していない。
そのためBASEはすでに、地域会議のハンドブックを作成するプロセスを開始した。ハンドブックは、地域会議の運用の指針となるもので、各地域会議が公平に質的な差が出ないように運用されることを目的としている。
まずBASEがハンドブックの構成、内容を具体化させ、来年2026年中頃までにハンドブック案が作成される。BASEのハンドブック案に関してはその後、ドイツ各地で開催されるワークショップにおいて市民と対話、議論して、市民の意見が反映される。ワークショップの後、オンラインによるヒアリングも開催し、その内容がハンドブック案に反映され、ハンドブックの最終案が作成される。
ハンドブックには、地域会議の職務規定に関する雛形も盛り込まれるという。
ベルリン@対話工房では今後も、選定の第1段階で開催されるフォーラムばかりでなく、ハンドブックの作成プロセスも取材してきたいと思っている。
(2025年11月26日)
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