2023年1月31日掲載 − HOME − 放射線防護 − 記事
除染された汚染土はどこへ

フクシマ原発事故によって汚染された土壌はまず、福島県内の中間貯蔵施設(双葉町、大熊町)で保管される。汚染土の搬入は、2015年にはじまった。その総量は1400万立法メートルになる見込み。ただ政府は福島県内での中間貯蔵を実現するため、中間貯蔵された汚染土を2045年までに県外で最終処分することを約束した。


最終処分の目処はまったく、立っていない。いずれにせよ、汚染土が莫大な量であることを考えると、汚染土の量をできるだけ少なくしない限り、最終処分地を見つけるのは不可能ではないか。


汚染土の量を減らすには、汚染土を除染して何らかの形で再生利用する。そのためにクリアランス基準といわれる汚染濃度の上限を設定し、その上限を超えないものを一般社会において再生利用できるようにする。


クリアランス基準の問題については廃炉の記事でも書いてきているので、ここでは触れない。


日本では汚染土に限り、その上限を1キログラム当たり8000ベクレルと規定した。廃炉で排出された資材では、それが1キログラム当たり100ベクレルなので、二重スタンダードだとの批判も強い。これはただ、単なる二重スタンダードだということで批判はできないと、ぼくは思っている。だがこの問題についても、今回は触れない。


8000ベクレルという基準によって、最終処分する汚染土の量は全体の4分の1になるという。


除染された汚染土はこれまで、福島県内などで再生利用する実証試験が行われてきた。これも地元で反対があるなどして、うまく進んでいない。今度は県外の所沢とつくば、新宿御苑で、再生利用の実証試験をするという。当該の地元で反発の声が高まっている。


実証試験の実施主体は、環境省だ。そのための説明会が、2022年12月にあった。しかし会場での入場者に厳しい人数制限があるなど、相変わらず情報をオープンにして市民の理解を得ようとする努力が見られない。


市民の理解を得るというよりは、説明会しましたという政府のアリバイ工作なのだと思う。


ぼくはその説明会の資料に、目を通してみた。すぐに、いくつかの疑問を感じた。


まず、汚染土の処分と再生利用をなぜ政府がやるのか。


汚染土を出したのは、東電だろう。それならその責任を取って、東電がお金を出してやるべきだ。ただ最終処分が何世代にも渡る時間のかかるものなので、一民間企業の力には限界がある。そのために、その実施と運用を政府に委託したのならわかる。しかしそういう説明は、どこにもなかった。


1キログラム当たり8000ベクレルの基準値についてはここでは議論しないが、汚染土の放射能濃度をどう測定するのかもわからない。


汚染土には、残材なども混じっている。それを除去して、汚染土を除染しなければならない。しかしその後に、土壌をどう測定するのかの説明がない。


土壌には、放射能濃度の低いところと高いところがある。その状態で、土壌の汚染を測定すべきではない。汚染の低いところで測定してしまう危険がある。それでは汚染濃度は、正確に測定したことにはならない。


この問題を避けるため、土壌はまずすべて乾燥させ、均一に混ぜてから測る。それを、これほど莫大な土壌すべてにやっているのだろうか。しかしそれをしない限り、クリアランス基準値を設けても意味がない。土壌の汚染濃度が、正確に測定できないからだ。


除染した土壌であっても、まだ放射能に汚染されている。ということは、除染汚染土の再生利用は、放射能汚染が拡散されることを意味する。クリアランス基準値を設けることによって、その汚染が追加放射線量の基準値以下に抑えられていても、再生利用される地点が全国で増えれば増えるほど、ある地点において被ばくの原因となる追加線量が全体として増える可能性がある。


それをどうコントールして、そうならないように管理するのか。その方針がまったく見えなかった。一つ一つが追加放射線量以下なので、それで全体としても安全だとする説明しかなかった。


それでは、安全とはいえない。


汚染土を再生利用する時に、工事が必要となる。汚染土は工事中、密封された状態から開放された状態となる。その時、土壌に含まれた放射性物資が飛散して、汚染が拡散する心配がある。それを防ぐ対策がまだ、未熟だと感じた。工事を民間業者に委託しながら、工事中の汚染の拡散をどう管理するのかも、わからなかった。


もう一つ根本的な疑問は、政府に真剣にこの問題に取り組む意欲があるのか、とても疑問に思ったことだ。排出されてしまった汚染土は、安全に最終処分しない限り、社会を汚染から守ることはできない。それが、汚染土を処分する大前提だ。


しかし説明書からは、社会を安全に守るという強い意欲が感じられない。あくまでも、汚染土を福島県外で最終処分する。それでいい。それが、最大の焦点になっている。汚染土を安全に処分することが、二の次になっていると感じられた。


それでは、市民を納得させることはできない。安全な最終処分も期待できない。


(2023年1月31日)
記事一覧へ
関連記事:
何のためのクリアランス基準?
何のための測定なのか?
トリチウム汚染水の問題を考える
関連サイト:
• 除去土壌の再生利用について(環境省中間貯蔵施設情報サイト)
• 2022年12月16日に行われた除去土壌再生利用実証事業に関する説明会の資料(環境省)
この記事をシェア、ブックマークする
このページのトップへ