2023年8月07日の毎日新聞電子版記事「今も続く 管理区域レベルの山林汚染 福島第一原発事故」は、福島県において1平方メートル当たり4万ベクレル以上の汚染のある地域が広い地域に渡って広がっていると報道している。汚染地域は、東京都全域よりも広いという。
記事は、原発問題の専門家である京都大学複合原子力科学研究所の今中哲二研究員を取材。今中さんが原子力規制庁による上空からの放射線モニタリングデータ(2022年10月)を使って、セシウム137の汚染状況を分析した結果だとする。汚染度の高いのは主に、県内の山林だ。
この汚染レベルは、原子力施設の管理区域に相当する。通常だとそのエリアは、原子力関連法規によって人の出入りが規制され、そこからの物の持ち出しが厳しく制限されるほか、食住は認められない。
福島県の山林への出入りが規制されていなければ、本来だと違法だ。
ぼくは原発事故後に、福島県のかなりの地域が管理区域になるのではないかといったら、いや汚染源がその場になく、放射性物質が飛んできたものなので汚染度が基準値を超えていても、管理区域にはならないという詭弁を使われたことがある。
それなら、避難区域にも原発という汚染源がないのだから、避難を指示する必要がなくなるではないか。その矛盾にきづかないのだろうか。
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家の周辺は除染できても、後ろの森は除染できない(2015年、福島県富岡町周辺で撮影) |
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ぼくはこの記事を読んで、「やっぱりね」と思った。
ぼくはフクシマ原発事故の後、2011年秋にバイエルン州狩猟協会を取材した。
バイエルン州は1986年のチェルノブイリ原発事故の影響で、ドイツの中でも最も汚染されている。その中でも特に、森林や山林が放射能で汚染され、それらの地域に生息するイノシシやシカの肉に高濃度の放射能汚染が検出されている。
ドイツではシカやイノシシの肉もよく食べ、それを狩猟して生活する狩猟者も多い。
そのため、バイエルン州ではどういう状況になっていて、どう対応しているのか知りたかったから、取材したのだった。
そこでバイエルン州狩猟協会から示されたバイエルン州の森林における汚染推移予想は、以下の表の通りだ。
年 | ベクレル / 平方メートル |
1986 | 80,001 - 120,000 |
2016 | 40,001 - 60,000 |
2046 | 20,001 - 30,000 |
2076 | 10,001 - 15,000 |
2106 | 5,001 - 7,500 |
2136 | 2,501 - 3,750 |
表からわかるように、30年毎に汚染度が半減している。これは、放射能汚染の中心がセシウム137で、その半減期が約30年だからだ。
森林の汚染が、長期に渡って続くことがわかる。事故から30年以上が、管理区域に相当することになる。
汚染が長期化するのは、放射性物質が森林の生態系に入ってしまうからだ。
森林に飛来してきた放射性物質は、森林の土の表面に落ち、その重みで土の中に入っていく。土の中に入った放射性物質は木の根から吸収され、葉にまで到達する。落葉樹では、放射性物質を含む葉が地面に落ち、放射性物質は土の中で再び根に吸収される。
このプロセスが、森の生態系で繰り返される。
そうなると、もう人間は科学と技術によって生態系に入った放射性物質を取り除くことはできない。森林を伐採すれば、別の話だが、その場合すべての森林を伐採しなければならない。
それは、森林の面積を考えると不可能だ。そのためドイツでは、森林の除染を諦めざるを得なかった。
森林や山林の汚染は、人間にはもうどうにもならないということだ。放射性物質が崩壊するのを待つしかない。
気候変動で山火事などが増えているので、山火事になると汚染が拡大するなどの問題が出てくる可能性もある。
バイエルン州の森林汚染の状況をもっと詳しく知りたい場合は、拙書『ドイツ • 低線量被曝から28年 チェルノブイリはおわっていない』を参照されたい(97ページから)。
(2023年8月08日) |