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ドイツ中北部の東側にあるハルツ山地は中世、魔女の住む山といわれてきた。その観光・保養地というと、ゴスラーやヴェルニゲローデ、クヴェトリンブルクなどがよく知られている。
ただハルツ山地を散策するには、ヴェルニゲローデとバート・ハルツブルクの間にあるイルゼンブルク(旧東ドイツで、現在ザクセン・アンハルト州)が便利だ。そこからのほうが、ハルツ山地の各方面にいきやすい。
イルゼンブルクには、イルゼ川が流れている。ドイツの詩人ハインリヒ・ハイネはこのイルゼ川に沿ってブロケン山頂まで登っている。ハイネがハルツを歩いて書いたのが『ハルツ紀行』だった。
イルゼンブルクでは、ハルツ山地の地下資源を使用して14世紀頃から製鉄が盛んだった。ハルツ山地には木があり、それを燃料とした。
東ドイツ時代も、世界各国から鉄のスクラップを輸入して、それを溶解して再生していた。その意味で、歴史のある製鉄の町といってもいいと思う。ただ東ドイツ時代には、それによって公害に悩まされてきた。
しかし東西ドイツ統一によって、町の製鉄産業は解体されてしまう。現在は、旧西ドイツのザルツギッター製鉄所に属する中小企業などが鉄板や鉄道用車輪などを製造しているにすぎない。
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ハルツ地方イルゼンブルクの街並み |
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イルゼンブルク町役場の横にあるパン屋さんのガラス窓に、「職人さん用に朝食を用意しています」という宣伝があった。ぼくははじめ、それが何を意味するのかよくわからなかった。なぜ、わざわざ「職人」と強調しているのだろう。
そのうちに、町のあちこちで手に職のある手工業業者の車が走っていたり、駐車されているのを見る。小さな町にしては、多すぎる。
イルゼンブルクの中心を離れ、イルゼンブルクと合併したドリューベックやダーリンゲローデにいっても、個人の住宅に手工業者の看板が出ているのが目立った。
これでわかった。イルゼンブルクは職人の町、手工業の町なのだ。でもなぜ、人口1万人くらいの小さな町に、こんなにたくさんの職人がいるのか。
そのうちに、あちこちの個人住宅の屋根にソーラーパネルがついているのがわかる。さらに観光・保養地なので、休暇用の宿泊施設も目立つ。町を案内してもらったガイドさんによると、市民が個人で融資を受け、休暇用宿泊施設を設置しているという。
これだけソーラーパネルと宿泊施設があれば、職人がたくさん必要なのも理解できる。
ぼくはサイトにおいて、再エネの普及で地元に職人が必要になり、町が自給自足できるようになると主張してきた。イルゼンブルクはそれを、観光とともに実現している町だったのだ。
町のガイドさんが、イルゼンブルクには車のディーラーが1件もないと誇らしげに語っていた。しかし町を走る車がどれも立派で、電気自動車が多いのにもびっくりさせられた(電気自動車のナンバープレートには、「E」がついているので簡単にわかる)。
自宅のソーラーパネルで発電された電気を売電しないで、車の蓄電池を充電しておけば、車に電気代はかからない。
そういえば、ドイツ北西部の再エネの町ザーベックと町の雰囲気が似ている。町が豊かなのがわかる。
イルゼンブルクは観光・保養地であっても、同じハルツ地方のヴェルニゲローデやクヴェトリンブルクのように観光だけに依存しているわけではない。再エネによって手工業の需要を増やし、町を構造改革して自立してきたのだった。
大企業の大きな工場を誘致しなくても、再エネによって地元の経済を循環させれば、小さな町はそれで持続的に自立していける。ぼくは今、こういう町づくりが求められていると思う。
(2025年10月16日) |