昨年2024年末、97歳の指揮者ヘルベルト・ブロムシュテットのことについて書いた。今度は、高齢の作曲家のことについて書いておきたい。
ぼくは今年2025年に入り、女性作曲家ソフィア・グバイドゥリナの楽曲『神の怒り(Der Zorn Gottes)』(ペトレンコ指揮、ベルリンフィル演奏)と、クルターグ・ジェルジュのオペラ『勝負の終わり(Fin de partie、エンドゲーム)』(ベルリン国立オペラ、ソディ指揮、エラート演出)を聞いた。
『神の怒り』は、宗教的な作品の多いグバイドゥリナらしい。2019年に書かれた作品で、初演は翌年の2020年11月。グバイドゥリナが88歳の時に書いた作品だ。
『勝負の終わり』は、クルターグが劇作家サミュエル・ベケット『勝負の終わり』を1957年にパリで初演されたのを見ており、2010年にミラノ・スカラ座からの委託され、ベケットの作品をオペラ化して2018年に完成させた作品だ。84歳で仕事を引き受け、92歳で完成させたことになる。
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グバイドゥリナの『神の怒り』演奏後のカーテンコールから |
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普通だったら、隠居して余生をのんびりと送っていてもいい歳。ところが、現代曲の巨匠といってもいい2人の作曲家はそうではない。まだまだ創作欲が旺盛だ。
グバイドゥリナの作品は、ダイナミックそのもの。20分ほどの短い作品とはいえ、作品のダイナミックなパワーには脱帽してしまう。高齢にして、そんなにすごいパワーはどこに蓄積され、どこから溢れ出るのだろうか。信じられない。
クルターグは、ベケットの作品の初演を見た時、なにもわからなかったとしている。31歳の時だった。それを50年以上も後になって、オペラ化するのもすごい。それまで温めてきたという。一幕2時間弱の作品だが、オペラの構成力がとても鋭利でするどい。高齢にして、これほど明晰に考えて作曲できるのは、若々しい思考力と創造力を持っているから。信じられない。
よく現代曲では、オペラはもう無理ともいわれる。しかし、クルターグの『勝負の終わり』はオペラ作品としてとてもすばらしい。昨年2024年に亡くなったアリベルト・ライマンの『城(Das Schloss)』(1992年)とともに、数少ない現代オペラ作品の一つに数えられると思う。
現代曲は敬遠されがちだ。しかしどちらの公演も、思ったよりもお客さんが入っていた。同時に、若い観客が目立つ。ベートーヴェンやブラームスなどクラシック音楽の定番の公演では、ほとんどがおばあちゃんやおじいちゃんばかり。その現実を見ると、クラシック音楽はこれからどうなるのかと心配になる。
しかし現代曲やバロック音楽になると、若者の観客が俄然と増える。若い世代は、定番のクラシック音楽とは何か違った刺激を求めているのだろうか。そう思うと、希望も持てる。
若い世代からすれば、ひいおばあちゃんやひいおじいちゃんといってもいい高齢な作曲家が、若者を惹きつけるのもおもしろい。
それなりに高齢なぼくからすると、ぼくは2人の作曲家に比べると、まだ若造だなあと感じさせられる。まだまだがんばって生きていけるなあ、いや生きていかなければと元気をもらったと思う。
感謝!
(2025年2月04日、まさお) |