2024年5月21日掲載 − HOME − ぶらぼー! − オーケストラ
マナコルダ/ゲルシュタインでベートーヴェン⟪ピアノ協奏曲第4番⟫

ベルリンフィルハーモニー・小ホールで、首席指揮者・芸術監督のアントネッロ・マナコルダ指揮による室内管弦楽団ポツダム・カンマーアカデミーのコンサートを聞いた。


演奏されたのは、グルックのオペラ⟪オルフェオとエウリディーチェ⟫の前奏曲とベートーヴェン⟪ピアノ協奏曲第4番⟫、シューマン⟪交響曲第3番⟫だった。


この3曲、特別何も関係ないように思うかもしれない。しかしベートーヴェン⟪ピアノ協奏曲第4番⟫を要にして、つながっているのだ。


ベートーヴェン⟪ピアノ協奏曲第4番⟫が初演された時、第2楽章におけるピアノとオーケストラの対話の仕方がグルックのオペラによく似ているといわれていた。シューマンはベートーヴェン⟪ピアノ協奏曲第4番⟫を、ピアノ協奏曲としては斬新的であるばかりか、交響曲的な面もあり、最高のピアノ協奏曲だと評していた。


ここですべての作品について書いていては、たいへん長いものになる。『ぶらぼー!』ではまだ協奏曲を取り上げていないので、今回は、ベートーヴェン⟪ピアノ協奏曲第4番⟫についてだけ書いておきたい。


ピアノは、ロシア出身のキリル・ゲルシュタイン。ゲルシュタインというと日本では、ベルリンの音大に在学しているピアニスト藤田真央が師事しているピアノの先生だと、知られているかもしれない。


ゲルシュタインは、少年時代にジャズに魅せられてアメリカに渡るが、その後に再びクラシックに戻ったユニークなピアニストだ。


ベートーヴェン⟪ピアノ協奏曲第4番⟫の第1楽章は、協奏曲としては珍しく、自然な柔らかいピアノ独奏ではじまる。ゲルシュタインはオーケストラ楽団員が演奏前のあいさつを終わって席につくかつかないかのうちに、練習であるかのように、スラッと素直に、とても自然に入っていく。その入り方の静かで、自然さが何とも見事に心にぐさっとくる。


ここでエッこれ何と、度肝を抜かれた感じがした。


その後にオーケストラが入ってくるのだが、この作品においてベートーヴェンが、オーケストラとピアノの対話をとても意識して書いているのがわかってくる。


指揮のマナコルダとピアノのゲルシュタインは、この点は百も承知。オーケストラはこの作品において、ピアノ独奏を引き立てるための単なる『鞄持ち』ではない。普通のピアノ協奏曲ではないことがよくわかる。


オーケストラとピアノが対話するやりとりをどう読み取って聞かせるのかが、この作品を演奏する一番の妙なのだ。


お互いに相手方の音楽をよく聞いて、それに反応しなければならない。マナコルダはゲルシュタインの独奏中も指揮をしたり、体を動かすなどして、オーケストラに次に対話で応じるための準備をさせていた。


ある時はダイナミックに、またある時は穏やかに、静かに、そしてある時はロマンチックにと、オーケストラとピアノの対話が同じであることがない。いつも、どこかに変化がある。とても豊かな対話だった。


ベートーヴェンは、オーケストラとピアノの対話で、ピアノの音がオーケストラによってかき消されないように、楽器も楽章ごとに限定している。


マナコルダ指揮のベートーヴェンでいつも感じることだが、ベートーヴェンの作品がたいへん見事に構成されているのがよくわかる。そしてこれがベートーヴェンだった?と、いつもとても新鮮に聞こえる。


ゲルシュタインもその新鮮さに応じるように、平常心で、ピアノ独奏ばかりを引き立たせるような音楽造りをしない。とても自然なのだ。


また、新しいベートーヴェンを聞かせてもらったと思う。マナコルダとゲルシュタインのコンピに感謝だ。


(2024年5月21日、まさお)
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関連サイト:
ポツダム・カンマーアカデミーのサイト(ドイツ語)
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