ポツダム・サンスーシ公園内にある新宮殿は、フリードリヒ大王ともいわれるプロイセン王フリードリヒ2世によって18世紀後半に建てられた。宮殿の外観からはわからないが、宮殿南側の側翼にロココ様式の劇場がある。
劇場は宮廷の催し物に使われていたが、今はバロック音楽・オペラやクラシック・コンサートの会場として使われている。ただし新宮殿の改造のため、今年2024年末から数年間閉鎖される予定という。
その新宮殿の宮廷劇場において、アントネッロ・マナコルダ指揮による室内管弦楽団ポツダム・カンマーアカデミーのコンサートを聞いた。
演奏されたのは、ベルリオーズの歌曲集⟪夏の夜⟫(歌:クリスティアーネ・カルク)とメンデルスゾーンの⟪夏の夜の夢⟫(歌:クリスティアーネ・カルク、ジャニーン・ド・ビーク)。いずれも夏の夜をテーマとし、今の季節にぴったりだ。
メンデルスゾーンの⟪夏の夜の夢⟫は、シェイクスピアの同名戯曲が元になっており、演奏会用序曲と劇付随音楽で構成される。劇付随音楽はメンデルスゾーンが1826年に17歳で作曲した序曲に感心したプロイセン王フリードリヒ・ヴィルヘルム4世の命によって1843年に作曲され、⟪夏の夜の夢⟫完成版は1843年10月14日、この新宮殿宮廷劇場で初演された。180年余り経って、再び初演の場に戻ってきたことになる。
ぼくは以前、この劇場でバロックオペラを聞いているはずだが、ほとんど記憶にない。音響がとにかく、よくなかったことだけは覚えている。椅子は横長の布張りの長椅子で、舞台の両側は大きな赤いカーテンで仕切られているので、音が吸収され、残響が残らない。そのため、音に響きがなく、カサカサした感じになる。
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開演前のサンスーシ新宮殿宮廷劇場の様子 |
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やはり今回も、劇場の音響には歌手もオーケストラもたいへん苦労していた。会場でリハーサルをしてわかっていても、小さな会場故、観客が入ると一段と音が吸収され、響かなくなる。
ベルリオーズの⟪夏の夜⟫を歌ったカルクは、最初の第1曲ヴィラネルでまだ声が寝ているのかと思ったくらいだった。しかし第2曲ばらの精からは、カルクの芸術性豊かな声が会場に広がる。さずがだ。
マナコルダは声の響きの問題を配慮してか、これでもかというくらいにオーケストラの音を抑えていた。
今回のプログラムはなんといってもメンデルスゾーンの⟪夏の夜の夢⟫がメインなのだが、カルクのおかげで前半で十分に音楽を満喫し、きてよっかたと満足できた。
さて、メンデルスゾーンの⟪夏の夜の夢⟫。マナコルダの指揮ではどの音楽を聞いても、初めて聞いたような新鮮さを感じる。今回もたとえば結婚行進曲はよく知っていても、「あれ、そうだったっけ?」という感じを抱かされる。
メンデルスゾーンが17歳で作曲した序曲は今更ながら、その完成度の高さと熟成度の深さに脅かされる。17歳でこんな音楽なんて信じられない、という感じだ。
その序曲の主題が17年後に書いた劇付随音楽に散りばめられているのだが、マナコルダはその主題の描き方、描き分けがなんといってもうまい。それからメンデルスゾーンの和声。
メンデルスゾーンの和声がヴァグナーの和声につながっているのがよくわかる。
ポツダムの夏の夜は涼しい上に、歴史的な建物で、こんなにすばらしい音楽を満喫できるのだから、ぜいたくだとしかいいようがない。
(2024年8月27日、まさお) |