ドイツでは、風力発電施設が各地に広がっています。それによって、貴重な野鳥が風車のブレードなどに衝突して死んだりするなどの被害が心配されます。それが、風力発電の拡大にブレーキをかける要因になっています。
風力発電は、エネルギー供給を再生可能絵エネルギーに転換する上でとても大切な発電方法です。でも、生物の多様性も守らなければなりません。種の保護と風力発電を両立させることも、再生可能エネルギーへ転換する上で十分に配慮されなければなりません。
ドイツでは洋上風力発電をはじめる前、洋上に研究施設を設置して、洋上風力発電による野鳥への影響を数年に渡って調査しました。洋上が渡り鳥の飛翔ルートになっているので、大型の洋上風力発電施設によって渡り鳥に影響があるかどうかを、事前に調べておく必要がありました。
その結果が、洋上風力発電施設設置の許認可手続きにおいて反映されています。
それに対し、陸上風力発電では野鳥に対する影響調査が十分だったとはいえません。事前調査なしに、風力発電施設が増えていったといっても過言ではありません。
そのため、十分な調査をしないままに机上でモデル推計したスタディなどが公表されていました。しかし、その結果にはバラツキがありました。環境団体は、被害が大きいという結果を使い、風力発電業界は被害が少ないという結果を使うなど、それぞれに都合のいい結果を使うという状態も続いています。
この問題を解決するため、ドイツでは政府が研究資金を出して、2011年から2015年の間に4つの研究機関によって風力発電による野鳥への影響調査(PROGRESS)が行われました。
その結果、これまで予想されていたよりも、野鳥への実際の被害が少ないことがわかりました。被害はむしろ、狩猟などの対象となっている鳥のほうで多く、希少種では被害が少ないとしています。
また鳥によっては、ガチョウやツルのように、衝突をうまく避けることのできる鳥がいることもわかりました。生息場所でのえさ不足や、車や鉄道との衝突も、野鳥に影響を与えていることが判明しました。
これまでドイツでは、野鳥保護の目的で野鳥の生息場所と風力発電施設の設置場所にある一定の間隔を設けるなどの措置が講じられてきました。ただ長期影響調査の結果、野鳥種によってその行動が異なるほか、季節によっても行動が異なることから、一定の間隔を設けても、その効果には限界があることがわかりました。
調査は最終的に、風力発電は多くの野鳥にそれほどの影響を与えていないとしています。でもノスリなど一部の種については、今後まだ詳細に調査しなければならないとしています。
ドイツには、野鳥への影響を技術的に解決しようとする試みもあります。
ぼくがドイツ北部の風力発電施設を取材した時、風車の一部に反射板がつけられていました。これは、鳥を近づけないためのものだと説明がありました。
レーザー光線によって、野鳥の動きを監視し、風車に近づく野鳥の数がある一定の数を超えると、風車を停止させるシステムも開発されています。
またドイツでは、野鳥問題の専門家や風力発電に関わるステークホルダー、環境団体などが集まって定期的に会議が開催されています。こうした対話によって、問題を共同で解決していくことも大切です。
(2019年10月30日)
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