電力供給において、「ブラックアウト」ということばを知っていますか。これは、地域全域において大規模停電が起こることをいいます。
ドイツが昨年2022年末で、稼働中の残り3基の原子炉を予定通り最終的に停止して、脱原発を完結するかしないかを検討していた時も、停止反対派は電力不足になって、ブラックアウトが起こると強調していました。
ただブラックアウトは、電力が十分に発電されている時でも起こります。送電網で電力の需要と供給のバランスが崩れると、送電網が不安定になってブラックアウトになる危険が高まります。需要だけが多すぎても、供給だけが多すぎてもならず、送電網においては需要と供給のバランスが取れていなければなりません。
ドイツ国内の送電網が安定していても、隣国あるいはヨーロッパ大陸のどこかで送電網が不安定になって、ドイツでブラックアウトになる可能性もあります。ヨーロッパ大陸では、送電網がつながっていて、連系しているからです。
日本においても夏になると、九州において太陽光で発電された発電電力量が多すぎて、太陽光発電施設を電力システムから切り離さなければならなくなっています。それは、供給される電力量が多すぎるので、その量を絞らないと送電網が不安定になるからです。
日本では電力需要のピークが、夏にきます。それに対してドイツでは、電力需要のピークは冬にきます。
ただドイツの冬は暗く、日照時間も短くなります。朝9時を過ぎないと明るくならず、午後4時くらいですでに暗くなってしまいます。また日中も、どんよりと曇っている日が多くなります。
それでは、太陽光発電によって十分に発電することができません。それに加えて風が吹かないと、再生可能エネルギーで発電できる発電電力量が大幅に減少します。
そういう状況において、電力の安定供給が保証されるのでしょうか。ブラックアウトが起こる心配はないのでしょうか。
 |
|
再エネが拡大するとともに、送電網の整備も必要になる。ドイツでもたとえば、ドイツ北部ハンブルク郊外において新しい高圧送電網が整備されていた |
|
ドイツでも、再エネが拡大するにつれ、ブラックアウトの可能性について警告する声が増えています。産業界や専門家の中において、警告するトーンが上がってきています。
ただそう主張する人たちは概ね、再エネの拡大に反対している人たちが多いともいえます。
ただ冬期において、再エネによって電力を十分に発電できなくなる可能性があるのは、現実の問題です。この現実に対して、どう対応するのかを説明しなければなりません。
そのために、電力を貯蔵しておく技術を開発するほか、電力システム全体でこうした問題に柔軟に対応できるシステムを開発しています。
電力の貯蔵技術については、たとえば揚水発電が知られています。これは、余剰電力を使って水を高い位置にある貯水槽に貯めておき、必要な時に放水して水力発電するものです。ドイツはノルウェーとの間に海底ケーブルを接続し、風力発電からの余剰電力でノルウェーにおいて揚水発電できるようにしています。これについてはすでに、「ドイツとノルウェーの間にグリーン電力専用送電線」の記事で報告しています。
あるいは、風力発電からの余剰電力で水素を製造し、電気を水素として貯蔵しおき、必要に応じて水素を燃料として燃料電池などで発電することもできます。
あるいは、生物資源を家畜の糞で発酵させ、それによって得られるメタンガス(バイオガス)を使って発電することもできます。これをバイオガス発電といいます。あるいは、蓄電池に余剰電力を蓄電しておくこともできます。これらについても、本サイトにおいて何回も報告してきました。
再エネを使って電力の安定供給を実現する方法については、これからもいろいろな可能性が生まれてくると思います。この分野には、技術開発に関して大きなポテンシャルがあります。今後これらの分野は将来技術として、国際競争がますます激しくなると見られます。
これら新しい技術を柔軟に組み合わせれば、ブラックアウトの可能性はこれまで通り、最小限に止めることができるようになります。
(2023年2月08日)
前の項へ←← →→次の項へ →一覧へ |