2021年11月16日掲載 − HOME − 脱原発一覧 − 記事
ドイツが脱原発するのに、フランスはなぜ原発を推進するのか

どうも「欧州連合(EU)よ、お前もか」という感じになりそうな気配になっている。何のことかというと、EUにおいて原子力が持続可能で、グリーンなエネルギーとして認められることになりそうな方向に進んでいるのだ。EUには、原発反対する国がいくつもある。欧州議会は環境問題により厳しい。だからそこまで、露骨にグリーンウォッシング(環境欺瞞)するとは思っていなかった。ぼくの見方が甘かったのか。でも最終的に、どういう結論がでるか見るしかない。


欧州委員会は「グリーンディール」という大風呂敷を広げてみた。でも現実を見ると、原子力を利用しないとカーボンニュートラルを実現できない国がたくさんある。それで、慌てふためいたのかもしれない。


東欧諸国は石炭火力発電への依存度が高く、長い間それはひどい大気汚染に苦しんできた。それだけに東欧諸国には、グリーンディールにおいて何らかの緩和措置が必要だとは思っていた。だがEUが露骨に、原子力はグリーンだとグリーンウォッシングするまで地に落ちるとは思ってもいなかった。


その背景には、原子力大国フランスのマクロン大統領の思惑があるに違いない。マクロン大統領が自分の再選と、フランスの生き残りをかけて、圧力をかけているのは間違いない。ドイツのメルケル首相も、マクロン大統領を支持しているといわれる。


マクロン大統領は、小型原子炉も含めた原子力技術によってフランスを技術大国として復活させると発表した。ぼくから見れば、時代遅れの原子力技術で何が技術革新かといいたくなる。でも原子力にどっぷり浸かっているフランスにおいては、それが幻想だということがわからないのだろうなと思う。


隣国でありながら、ドイツはそれに対して、脱原発を来年2022年末までに完徹させる。どうして独仏は、こんなに正反対の方向に走っているのだろうか。


フランスが原子力に依存する背景には、いろいろと根深い理由があると思う。


フランスが核保有国だからと思う人もいると思う。あるいは、ドイツ人には格別の不安症候群があって、原子力の利点だけでは楽観主義的になれず、問題点があることに対して不安から道徳的に過剰に反応し、冷静に判断できなくなっているからと思う人もいると思う。


原子力に反対するのは、イデオロギー的だと簡単に片付ける人もいる。でも問題は、そんな簡単ではないと思う。そういうなら、原子力を推進するのもイデオロギー的だといわなければならない。


ぼくはここで、いろいろな独仏に対する先入観から離れたい。それで、独仏の違いを政策的な違いと電力システムの構造的な違いから見てみたい。


フランスでは、原子力政策は明らかに国家戦略だ。日本と同じように、原発の立地場所にいくと、すごく優遇され、町はとてもきれいだ。たくさんのお金が流れていることがわかる。


それに対して、ドイツでは原発のある町にいっても原発のない町とそれほど大きな違いが感じられない。地元の町長に聞いても、原発があっても地方税の営業税収が増える程度だといわれる。


3.11福島原発事故後に、ドイツで原発を止めるか止めないかを審議していた時、その町長は、「原発が止まってもまったく問題ない。どちらにするのか早く決めてもらったほうがありがたい」といっていた。


それは、地方経済が原発に依存していないからだ。連邦制のドイツでは、政治だけが地方分権化されているわけではない。経済も技術力のある中小企業を中心に、地方に分散されている。それは中央集権国家で、巨大な国営企業が中心のフランス経済とは大きく異なる。


原子力政策に関していえば、ドイツの場合、政策立法権は連邦である国にある。それに対して、その執行権と監督権は立地州にある。原発の許認可は、立地州の管轄省が出す。国は、州の政策に問題があると判断した時にだけ、指示を出してそれを変更させることができる。こうした政治構造は、中央集権国家のフランスとは大きく違う点だ。


次に、電力システムの構造を見よう。


フランスでは、元々国営会社だったフランス電力会社(EdF)がモノポール化している。原発はそのEdFのもの。原子力による大型発電で、発電電力量の約70%を供給している。その下で、確固たる利権構造ができているといわざるを得ない。


それに対してドイツでは、大手電力会社は大型発電と高圧送電しかしていなかった。配電と小売は主に、シュタットヴェルケといわれる公営の地方・都市電力公社が行っていた。そのため、ドイツには100を超える電力会社があった。シュタットヴェルケは全体で、発電電力量の25%を供給しなければならなかった。独自に発電しなければならなかったということだ。


なお、ここで過去形を使ったのは、20世紀末に電力市場が自由化される前の過去についていいたかったからだ。


ドイツでは過去においても、大手電力による大型発電ばかりではなく、小型発電も行われていた。電力市場における利権構造も分散化されていた。


フル稼働を原則とする原子力発電の割合がフランスでこれだけ高いと、電力供給に柔軟性がない。原発においてどんどん発電されるので、その電気を使うしかない。省エネは、してはならないのだ。EUで省エネランプの導入を決定する時、フランスは反対したが、それは当然だった。さらにフランスでは、暖房機が電気を使うために電気式暖房機に換えられていったと聞いた。これは、フランスが社会的にも原発に依存しているということだ。


その結果、冬に寒波がきてみんなが電気式暖房機をがんがんつけると、電力不足が深刻になる。その時フランスは、ドイツから電気を輸入しなければならなくなる。


こうして独仏を構造的に比較して見ると、独仏の構造がまったく異なっていることがわかる。フランスで脱原発を実現するのが、たいへんなこともわかる。抜本的な改革が必要だ。それに対して、ドイツでは原発への依存度が30%前後だった上、経済的、社会的にも原発にそれほど依存していなかった。その分、脱原発を実現しやすい構造だったともいえる。


日本では、発電における原発依存度は、ドイツに近い。しかし経済的、社会的依存度になると、フランスに似ていると思う。


問題は、フランスの圧力で原子力をグリーン技術としても、実際に原子力に資金が流れるかどうかだ。原子力に資金が流れないと、マクロン大統領の思惑通りにはならない。ぼくは投資家に、それほど見識がないとは思いたくない。


(2021年11月16日)
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関連サイト:
欧州員会によるEUのグリーンディールのサイト(英語)
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