2022年1月04日掲載 − HOME − 脱原発一覧 − 記事
欧州委、原発を持続可能と分類

欧州委員会は昨年年末、原子力発電を持続可能だとして、タクソノミー・リストに入れるとの提案を各加盟国にメールで送付した。


タクソノミーとは「分類学」という意味。欧州連合(EU)はそのグリーン・ディール政策の枠内で、2050年までに二酸化炭素の排出を実質ゼロとするカーボンニュートラルを実現する。リストはそれに向け、持続可能な技術や活動への投資を誘導するため、持続可能と認める統一基準と対象を規定する。前回の記事でも書いたように、いわば「グリーンリスト」だといっていい。


欧州委はカーボンニュートラルを実現する上で、原発のほか、CCS(二酸化炭素の分離・保留)技術と組み合わせた石炭火力発電、天然ガスをどう取り扱うべきか提案しなければならなかった。


欧州委はここにきてようやく、条件付きで原発と天然ガスに「持続可能」のラベルをはることを提案したことになる。最終提案は各加盟国と専門家のコメントを待って、今月2022年1月中旬に発表される。


原発に関しては、2045年までに建設許可の出される原発建設プロジェクトを対象とし、2050年までに原発から排出される放射廃棄物の最終処分問題が解決されることを条件としている。


欧州委は、カーボンニュートラルを実現するのに原発の利用を希望するフランスやチェコ、ポーランドなど東欧諸国の意向を配慮したと見られる。


独ネッカーヴェストハイム原発
ドイツのネッカーヴェストハイム原発。写真左のドームが原子炉1号機、右が原子炉2号機。1号機は2011年3月に停止され、同年8月に廃炉決定、現在廃炉中だ。2号機は2022年12月31日までに停止され、廃炉となる。

しかしここには、2つの大きな問題がある。


一つは、カーボンニュートラルを実現する上で条件付きとはいえ、再生可能エネルギーと原発を同等にしたことだ。持続可能性において再エネと原発が同じであるはずがない。原発には放射性廃棄物の問題が残るので、持続可能ではない。投資を誘導する目的とはいえ、原発を再エネと同等にするのは再エネの持続可能性に泥を塗るようなもの。


それどころか、「持続可能」とは何なのか。その意味自体に疑問を呈し、持続可能であることの意味をどん底に陥れた。


もう一つは、新しい原発を建設した後の問題だ。


自由化された電力市場においては現在、大型の原発や火力発電で発電された電力を売るだけでは、もう大型発電所をメンテナンスして維持していくのに十分な資金を調達することができない。維持資金だけではない。大型発電所を新設するための資金を積み立てることもできない。


たとえ新しい原発ができても、それを安全に、持続可能に運用していけないということだ。


今後、新しい原発を建設するには、投資を誘導するだけでは不十分。原発が利益を生み、長期に発電、運用していけるだけの新しいメカニズムが必要になる。


たとえば米国や英国ではすでに、そのために容量市場が導入されている。日本でも容量市場に向けて動き出した。容量市場とは電力市場において、電力を売る以外に、発電出力に応じて発電所を所有する電力会社に資金が流れるようにするメカニズムだ。


あるいは英国のように、原発で発電された電力を割高に買い取る固定価格買取制度(FIT)も考えられる。


ただ原発にFIT制度を設けるのは、間接的な補助となる。自由競争を原則とするEU域内では、それが認められない可能性が高い。容量市場についてはすでに、EUでも議論されてきた。しかしドイツなど容量市場を必要としない加盟国もあり、EUが容量市場の導入でまとまる可能性はまだない。


今回の欧州委の提案は、目先の投資誘導政策にすぎない。投資後それを、どう持続可能に運用していくのかは何も考えられていない。いやむしろ原発は、特別に利益を生み出すメカニズムをつくらない限り、持続可能に運用できる発電技術ではない。


それでいてEUのタクソノミー・リストは、持続可能な技術を規定する基準だという。それでは、リスト自体の意義も疑問に思う。矛盾もいいところだ。


(2022年1月04日)
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関連サイト:
EUのタクソノミーに関する説明ページ「EU taxonomy for sustainabel activities」(英語)
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