ドイツの戦略的予備力は小規模

 1カ月ほど前に、ドイツが電力システムにおいて容量市場ではなく、戦略的予備力を採用した理由についていくつか挙げました。

 ドイツでは、今年2020年10月から戦略的予備力のメカニズムがはじまっています。そのメカニズムをここで簡単に説明しておきたいと思います。ただしドイツでは、法的には戦略的予備力ではなく、容量予備力と呼ばれます。

 まず、ドイツの送電網規制機関のネット機構(Netzagentur)が、送電網の状況や電力需要を考慮して、戦略的予備力としてキープしておきべき発電容量を規定します。次にそれをベースに、送電事業者が入札手続きを開始し、発電所が1MW(1000kW)当たりの容量価格を提示て、入札します。

 入札価格の安い発電所から応札し、規定された発電容量を満たすまで発電所が選定されます。

 最初の2年間に戦略的予備力として規定された容量は、105万6000kW。これは今なら、原子炉1基程度の容量です。2020年10月1日から2022年9月30日まで予備力として確保されます。応札した発電所は全部で5基。すべて天然ガス発電所でした。

 1kW当たりの約定価格は、68ユーロ/kW/年。約8,500円に相当します。予備力の年間総額は、約7200万ユーロ(約90億円)となります。

 この額は、電気料金に上乗せして回収されます。

 それに対して、4年後から容量市場を導入する日本では、今年2020年10月にメインオークションが行われ、以下のように2024年度の容量市場規模が決まりました。

約定総容量:1億6769万kW
約定総額:約1兆6000億円
1kW当たりの約定価格:1万4000円/kW余り
1kW当たりの総平均価格:9,534円/kW

 日独で比較すると、容量規模では、日本はドイツの約160倍。年間の市場規模総額も180倍になります。1kW当たりの約定価格も、日本のほうが約1.6倍と割高です。

 こう見ると、日本の容量市場規模がいかに大きく、高額なものかかがわかります。ドイツの場合、予備力の対象が天然ガス発電所だけとなっているのに対し、日本の容量市場では、既存の火力発電所や原子力発電所にも資金が流れます。

 ドイツの場合、予備力をキープする上で発生する資金が、電気料金に公平に分配されるので、既存電力会社と新規電力会社の間に不公平が発生しません。それに対して日本の制度では、発電所を所有しない新電力が俄然不利になります。この点でも、大きな差があります。

 こうして見ると、日本では何のためにこれだけ多額な新しい容量市場を導入するのか、よくわかりません。電気料金が高くなるだけです。それによって誰が有利になるかを見ると、既存の大手電力です。大手電力を優遇する計画経済的な施策としかいいようがありません。

2020年12月06日、まさお

関連記事:
ドイツは容量市場を選択しなかった
容量市場は必要か?

この記事をシェア、ブックマークする

 Leave a Comment

All input areas are required. Your e-mail address will not be made public.

Please check the contents before sending.