2022年2月08日掲載 − HOME − 脱原発一覧 − 記事
原発への投資は増えるのか

グリーンディール政策を実施する欧州委員会は、原子力発電を『持続可能』だとしてタクソノミー・リストに入れることを最終決定した(「欧州委、原子力と天然ガスでグリーンウォッシングを確定」)。それによって、原子力発電をグリーンテクノロジーとして、小型原子炉など新しい原発の開発とその設置への投資を促進したいとする。


問題は、それで原発への投資が実際に増えるのかどうかだ。


まず、原発への投資が増える要因から見ておこう。


グリーンディール政策には、機関投資家など大口投資家をグリーン投資に誘致する上で根本的な欠陥がある。それは、再エネなどグリーンテクノロジーは施設が小さくて済むということだ。グリーンテクノロジーの分野は幅が広いので、投資対象となるプロジェクトはたくさん誕生する。しかし、それぞれの投資規模は小さい。


たとえば再エネで大規模投資として期待できるのは、ごく限られている。風力発電では大型の洋上風力発電、太陽光発電では巨大メガソーラー、太陽熱発電所は元々大型だ。ただその分野において、そうたくさんの建設プロジェクトが誕生するとは考えられない。


水素に対する期待が大きいのは、環境効果よりは、大型投資となるからだ。水素の需要が増えれば増えるほど、大型投資対象が増える。その点を見逃してはならないと思う。


それと同じことが、原発にもいえる。原発をグリーンテクノロジーとすれば、原発はその中で、数少ない大型投資の対象となる。同時に、受注不足に苦しむ原子力産業の救世主ともなる。


それが、原発投資の魅力だ。


独ネッカーヴェストハイム原発
ドイツのネッカーヴェストハイム原発。写真右のドームが原子炉2号機。ドイツでまだ稼働している原子炉3基のうちの1つだ。それも2022年12月31日までに停止される。ドイツはそれに伴い、脱原発を達成する

ただ原発に投資するには、大きな投資リスクが伴う。そのリスクを軽減するため、国が投資保証するほか、建設後発電で損失を出さないためのメカニズム造りもしなければならない(「原発は資本主義では機能しない」)。その点で、立地国のサポート体制が原発への投資において大きな要因となるはずだ。


それは、これまでもそうだった。


もう一つの問題は、過去において原発への投資はそれほど、大口投資家に依存してこなかったことだ。それは、電力市場が自由化されるまで、電力会社が発電ビジネスだけで十分に新しい原発に投資するだけの資金を調達できたからだ。


それには、とても重要な意味もあった。原発への投資が自由に解放されると、投資家による利益向上圧力で原発の安全性が犠牲になる可能性があるからだ。原発の市場はだから、完全に自由競争にはさらされない。管理市場ともいわれる。


しかし電力市場が自由化された現在、電力側にその余裕はもうない。今後は、原発投資において大口投資家への依存度が大幅に大きくなるはずだ。その時、原発の安全性は維持できるのか。


原発に投資しても、すぐに利益を上げることはできない。長い時間をかけて、減価償却しなければならない。投資家は長い目で見て、投資しなければならない。投資家はそれで、我慢できるだろうか。


しかし現在、投資市場の状況は大きく変わってきている。投資家は投資した後、できるだけ早くその見返りを期待する。それが、実経済とはいえないネット事業などに多額の投資が流れている要因だ。それに対し、実経済の基盤であるものつくりに投資しても、投資をすぐに回収して、利益を上げることはできない。それは、ネット事業への投資と根本的に異なる。


それでいて、原発に対して投資が増えるだろうか。そのためには、前述したように、原発建設に対する公的サポートがとても重要になる。投資市場の変化を見る限り、これまで以上に補助など公的サポート付きで原発の投資環境を魅力あるものにしないと、投資家はついてこないだろうと見られる。


それはこれまで以上に、原発への投資が納税者依存になるということでもある。


確かに当初は、小型炉など新しい原子炉に対する投資が増えるかもしれない。でもそれは、原子力産業とその関連産業が業界内において自ら投資を増やして、業界を存続させるために投資するにすぎない。


ただ小型炉がコスト高になるのは、いずれわかるはずだ。


さてそれで、原発への投資は増えるのか。ぼくは、予測はしない。市場の動きを見ていたい。


(2022年2月08日)
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関連サイト:
EUのタクソノミーに関する説明ページ「EU taxonomy for sustainabel activities」(英語)
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