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ぼくはこれまで、原発には学習効果がないこと(「学習効果を期待できない原発」)、さらに原発は何らかの支援メカニズムがないと運用できないこと(「欧州委、原発を持続可能と分類」)について書いてきた。
学習効果がないとは、通常産業技術は時間とともに学習効果でコストが削減されていくものだが、原発の場合その学習効果がなくて、コスト削減どころか、運用コストが高くなるばかりだということだ。
それにはいろいろ背景があるが、一つは原発の場合、安全性を確保するどころか、常に改善しなければならないからだ。
さらに原発では、原子炉が一旦稼働しても、建設時点での技術ではなく、修理や改造する時点の最新技術と技術に対する最新の知見を常に採用しなければならないことが、国際標準として法的に規定されているからだ。
原発では新設するのに莫大な投資が必要な上、大型発電施設では減価償却に30年ほどかかる。
そうしたいろいろな条件がある中で、原発を長期に運用するには、原発で発電して電気を販売して利益を上げるばかりではなく、メンテナンスをするほか、安全性を高め、原発をさらに新設するための資金を積み立てていかなければならない。
そのためには、原発を支援するメカニズムが必要となる。
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リンゲン原発の格納容器。同原発は最終停止後、30年余りかけて廃炉とされた。写真は2012年11月に撮影したもの。この時はまだ、格納容器は30年近く寝かせられたまま(安全封鎖)の状態で、格納容器は解体されていなかった |
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そのためのメカニズムはたとえば、日本では総括原価方式というものだった。それは、発電に係るすべてのコストに加えて、メンテナンスと発電所の新設に必要となる資金を積みていくことを考えて利益を上乗せし、電力会社が絶対に損をしないように電力料金を設定する仕組みだった。
その他では、容量市場というメカニズムがある。それは、電気を販売するだけでは電力会社が必要とする資金を調達できないので、電力市場で電力を取引する事業者を対象にして発電容量を維持するほか、発電所を新設するための資金を拠出させるメカニズムだ。
イギリスではその他原発に対して、再生可能エネルギーを拡大する目的で導入されたように、発電された電気を流通価格よりも割高に買い取る固定価格買取制度(FIT)が導入される。ただ原発に学習効果がないので、原発のFIT制度は再エネとは異なり、過渡的な制度ではなく、恒常的に必要とならざるを得ない。
これでわかると思う。
原発は一旦建設すると、原発を維持していくために何らかの支援メカニズムがないと運用できない。それに加え、原発では排出される放射性廃棄物を処分するほか、廃炉するための資金も運用期間に調達しなければならない。
これらの資金は、電気の最終消費者である一般市民が負担している。原発は結局、資本主義における純粋な自由競争の論理では維持、運用できない。原発を保護するための何らの支援メカニズムが必要となる。
もう一つの問題は、一旦原発を支援するメカニズムを導入すると、そこから抜け出すのが難しくなるということだ。原発を維持する限り、そのメカニズムか、それに代わる新しいメカニズムを運用して、原発を保護しなければならない。それとともに、利権構造が固まっていく。
原発に関して、脱原発する出口戦略がなかなか策定できない背景には、こういう問題もある。
カーボンニュートラルを実現するには、それまでに再エネを拡大させなければならない。そのために、橋渡しとなる過渡的な発電方法が必要なのは確かだ。でもこうして原発の現状を見ると、原発が橋渡しのための過渡的な技術ではないことがわかると思う。
(2022年1月11日) |