2022年5月20日掲載 − HOME − 脱原発一覧 − 記事
ドイツが脱原発を延期しないわけ

ウクライナ戦争で、ドイツによるエネルギーのロシア依存が問題になっている。ロシア依存度が特に高いのは、天然ガスだ。その天然ガスがドイツでどう使われているかは、すでにエネルギー選択宣言ブログの記事「ガスはエネルギーだけど、その意味と影響は?」で書いているので、参照されたい。


その記事でもわかるように、ガスを原子力で代用するには無理がある。それにも関わらず、ロシアからガスや石油、石炭の輸入をすぐにストップし、その代わりに脱原発する時期を延期するべきだと議論される。


原子力が石油の代用にならないのは、明らかだ。ドイツでは石油は発電には使わない。石油は自動車の燃料と暖房用の燃料だ。それに加え、化学産業にはなくてはならない資源だ。それを原子力で代用することはできない。


石炭だけは、原子力の代用となる。石炭は発電するための燃料であり、原発と同じようにベースロード電源として使われるからだ。ただドイツでは、そのために脱原発時期を延期する必要はない。


ドイツは遅くとも2035年までに(現政権は2030年に前倒ししたい)、脱石炭を完結させる。そのプロセスにおいて、エネルギーの安定供給を確保するため、石炭火力発電所がいくつかリザーブとして確保されている。石炭はさらに、他国からも調達しやすい。


そういうと、二酸化炭素の排出が増えるので問題だと反発される。


でもドイツで、今稼働しているのは原子炉3基だけだ。いずれも今年2022年末までに最終的に停止される。それとともに、ドイツの脱原発は完結する。


3基を合わせた平均の年間発電電力量は、ドイツの年間総発電電力量の5%にしかならない。それくらいなら、石炭火力による二酸化炭素排出の増加は再生可能エネルギーを増やすことなどで簡単に相殺できる。


ネッカーヴェストハイム原発
まだ稼働中のネッカーヴェストハイム原発2号機(写真右のドーム型)だが、2022年末までに最終停止される

ドイツ経済省と環境省は2022年3月07日、脱原発時期を延期しても便益よりも、リスクが大きくなるだけで、脱原発時期を延期しないとの結論を出した。原子力安全規制を無視しなければならない上、莫大な経済負担を伴うだけだからだ。


技術的なことからいうと、ドイツにはもう新しい核燃料はない。核燃料の入った燃料集合体の製造には、最低1年以上かかる。それでは、最初に安定供給が不安定となる今年2022年から2023年の冬を乗り切れない。


2023年春まで新しい燃料集合体なしに原子炉の稼働を続けるには、今年2022年夏に核燃料の燃焼度を下げ、発電電力量を絞っておかなければならない。それでは、原子炉の稼働を延長する意味がない。


安全性の問題からいうと、今稼働している原子炉3基では、2019年に実施しなければならなかった安全性評価が、2022年末までに最終停止することを前提に、免除されていた。


安全性評価は本来、10年毎に実施される。それは、原子炉の稼働を継続する前提条件だ。もし脱原発を延期するとなると、その安全性評価を実施しなければならなくなる。しかしそれには準備期間も必要で、1年やそこらで済む問題ではない。


安全性評価を実施しないまま脱原発を延期するとなると、原発安全の前提条件を無視することになる。


もう一つの問題は、稼働中の原子炉には2022年までの運転許可しか出されていないことだ。それを延期するには、新しい運転許可が必要になる。


原発では、常にその段階での最も新しい技術と科学の水準にある技術を適用することが求められる。新しい運転許可を出すには、その国際標準を守らなければならない。


となると、稼働中の原子炉が新しい運転許可を得るには、最新の原子炉と同じように、事故があっても放射能汚染が原発敷地外に飛散しないことが求められる。そのためには、稼働中の原子炉を抜本的に改造しなければならない。それには、莫大な資金と時間が必要な上、技術的にもほぼ不可能といっていい。


それでも稼働中の原子炉に新たな運転許可を与えるには、国際標準の安全規制を無視しなければならなくなる。


2021年末に停止された原子炉3基を再稼働させる場合にも、新しい運転許可が必要だ。それには、前述したことが障害となる。2021年末に停止された原子炉3基を再稼働させるにも、安全性に関する国際標準を無視しなければならないということだ。


それでも、脱原発時期を延期することに意味があるだろうか。意味がないのは明らかだ。


(2022年5月20日)
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関連サイト:
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