ガスはエネルギーだけど、その意味と影響は?

 ウクライナ戦争が続いています。ここでは、ドイツなどを中心に、EUがロシアからの天然ガス、石油、石炭などのエネルギーに依存していることが問題になっています。

 プーチン大統領に戦争を止めさせるため、ロシアからのエネルギー供給をストップするべきだと主張されています。そうしない限り、ロシアに対する経済制裁の効果は薄いともされます。

 その中でも、特にロシア依存度の高いのが天然ガスです。ドイツを例に、このロシアへのエネルギー依存の問題について考えてみたいと思います。

 エネルギーというと、すぐに電気だと思ってしまう人も多いと思います。だから単純に、天然ガスを止めて、原子力発電を増やせばいい、あるいは脱原発を決めたドイツでは、脱原発する時期を延期すればいいという議論があります。政治家やシンクタンク、メディアにおいてさえも、そう主張する人たちがいるので、ちょっと驚かされます。

 ここでは、発電における原子力とガスの役割が違うことが理解されていません。ガスはすぐに発火し、ガスの供給量を簡単に変更して、発電電力量を変動させることができます。その点でガス発電は、電気の需要に応じて、発電電力量を調整しやすいのです。だからガス発電は調整力といわれ、主に電気の需要に合わせて発電することに使われます。

 それに対して、原子力発電はフル稼働を原則とします。発電電力量は、常に一定なのです。原子力発電では、電気の需要の変動に素早く対応することができません。原子力は、常に必要とする電力を供給するベースロード電源として使われます。

 つまり発電において、ガスと原子力の役割はまったく違います。ガス発電を止めても、原子力発電をその代替とすることはできません。それをはっきり、認識して議論しなければなりません。

 ここにはさらに、もう一つ誤解があります。それは、天然ガスを発電に使うという誤解です。たとえばドイツの場合、総発電電力量におけるガス発電の割合は、約15%(2021年)と低いのです。それに対して、天然ガスが一次エネルギー消費に占める割合は、約27%に上ります。

 どうして、そうなるのでしょうか。

 ドイツにおける天然ガスの用途を詳しく見てみましょう(2021年)。天然ガス消費が一番多いのは産業用で、全体の37%を占めます。次に、民生(家庭)(32%)、民生(業務)(13%)、地域熱源(暖房、冷房)(9%)、発電(9%)と続きます。

 簡略していえば、供給される天然ガス全体の約半分が熱供給に使われるということです。発電に使われるのは、天然ガス全体の10分の1にすぎません。

 産業部門においては、化学産業で天然ガスが一番多く使われています。たとえば、肥料産業です。鋳物工場などでは、ガスを燃やして鉄を溶かさないことには、工場が成り立ちません。ガスは発電ではなく、その他の用途においてはなくてはならないエネルギー源になっているのです。

 そしてドイツは、必要とする天然ガスの約55%をロシアに依存しています。

 さらにもう一つの問題は、ロシアからくる天然ガスがパイプラインで供給されていることです。バルト海海底のパイプライン・プロジェクトNord Stream 2は、ロシアによるウクライナ侵攻でおじゃんになりました。しかしそれ以外にも、ロシアからの天然ガスはいくつものルートで、パイプラインによって供給されています。

 パイプラインで供給するとは、供給源をそう簡単に変えることができないことを意味します。ドイツにはさらに、LPGターミナルがありません。ということは、LPGを輸入できるようになるまでには、まだ時間がかかります。

写真右の白いドーム状の建物が、廃炉中のリンゲン原発の格納容器。撮影した時は、解体しないまま安全密封という方法で安全に管理して、放射線量が下がるのを待っていた。すでに、取り壊された。写真左は、リンゲン原発が停止した後に、建設されたガス発電所。2012年撮影。

 これまで挙げた事実から、何が見えてくるのでしょうか。

 エネルギー全体におけるガス依存度は、全体の4分の1です。ドイツはその半分をロシアに依存しているので、マクロ経済的に見ると、たとえロシアからの天然ガスがストップしても、経済的には全体として、それほど大きな影響がないように見えます。

 しかしそれをマイクロ経済的に見ると、ガスを必要不可欠とする産業では、操業停止に追い込まれます。その結果、サプライチェーンに機能しないところが出てきます。それとともに産業全体に影響が現れ、ガスを必要としない産業においても、操業停止を余儀なくされるところが出てくると予想されます。その影響が、ドミノ的に拡大することが心配されます。

 一般家庭などでは、暖房や給湯、調理ができなくなるところも出てきます。これから暖かくなるので、寒さを凌ぐ必要はありません。しかし次の冬を、どう乗り切るのか。それが大きな問題です。次の冬までに、ロシア以外からガスを十分に輸入することができるでしょうか。

 ロシアからのエネルギー供給をストップせよと主張するのは、簡単です。でもその結果、どういう影響が出るのか。それについて、十分に考えているでしょうか。ぼくには、それが不安です。

 ドイツ政府がロシアからの供給ストップに踏み込めないのは、その影響の大きさを認識しているからです。たとえロシアからの供給をストップさせて、プーチン大統領がすぐに撤兵させるでしょうか。その保証はありません。ぼくはむしろ、プーチン大統領が逆に意固地になって、戦争をより激化させるだろうと思っています。戦争は終わりません。

 無謀な戦争を止めさせるため、可能な限りの対策を講じなければならないのは、いうまでもありません。そうして、人の命が無駄に失われるのを止めなければなりません。ただそのためには、自分たちに痛みが降りかかることも覚悟しなければなりません。

 でも今、ドイツ社会にその覚悟はあるでしょうか。その覚悟なしに、ロシアからのエネルギー供給だけをストップしても、社会が混乱するだけです。ぼくは、ドイツ社会がまだその重大さに気づいていない、そこまでは覚悟していないと思っています。

 この状況で、ロシアからの供給ストップを感情的に煽るのは、とても危険だと思えてなりません。供給をストップするなら、その前にその影響の大きさについて社会に真剣に説明し、社会の納得を得てから行うべきです。

2022年4月03日、まさお

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関連サイト:
Nord Stream社のサイト(英語)

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