ウクライナ戦争に伴うロシアからの天然ガス輸入問題で、ドイツ政府が今年2022年末に最終停止される予定の原子炉3基の稼働を延長させないと判断したことは、すでに報告した(「ドイツが脱原発を延期しないわけ」)。
ドイツ政府の判断は、事実に基づいて合理的に判断した結果だった。脱原発を延期して残った原子炉の稼働を続けるのは、意味がないことがよくわかる。
ところがその後、脱原発の最終時期を延期したほうがいいとの声が、保守系政党や保守系メディアから強くなる。これが、事実をよく理解しないままに主張しているのは明らかだ。
ところが最近になって、これまで脱原発政党だったはずの緑の党までが、脱原発延期の主張に押され、再検討する必要があると主張し出している。
事実関係からすると、電力会社も望まない、どう考えても意味のない脱原発の延期。だがどうしてここまで、脱原発が揺れてしまったのだろうか。
脱原発の延期は、ロシアからの天然ガス不足という緊急事態に備えて一時的にそうするものにすぎない。脱原発までも撤回してしまおうというものではない。それに、注意しなければならならい。
現在、ドイツの政党で脱原発に反対なのは、極右政党の「ドイツのための選択肢(AfD)」だけであることを指摘しておきたい。
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2022年末までに最終停止される予定のネッカーヴェストハイム原発2号機(写真右のドーム型)だが。。。 |
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脱原発延期の主張において抜けているのは、それで本当に効果があるのかどうかだ。何でも発電すればいいというものではないのは、本サイトで何回も指摘してきた。
だがそれは、どうでもいいように見える。とにかく、脱原発の延期で天然ガスがなくても、原発で発電さえすれば電力不足を解消できる、あるいは石炭火力発電を復活させる必要がなくなると主張される。
緊急時に備えるには、すべての可能性を残しておくべきだということなのだと思う。緊急時に脱原発に固執するのは、単なるイデオロギー的な主張だと批判される。
そういう主張に、緑の党が折れてきた状況だ。
天然ガス不足で困るのは、ガスを熱源の燃料として使う産業界と暖房の燃料とする一般家庭だ。だがその問題は、原発で発電しても解消できない。
それにも関わらず、脱原発延期の主張がなぜ、ここまで強く伸びてきたのか。
それは多分、野党の保守政党や保守系メディアが、天然ガス不足で消費者に寒くてつらい冬を強いるのに、政府がやるべきことをすべてやっていないとのイメージを消費者に与えたいという心理的な戦略なのではないかと思う。事実やその効果とは関係ない政治的な批判だともいえる。
その批判に対し政権与党の緑の党は、イデオロギーで脱原発を主張してきたわけではないこと、緊急時に備えてすべてのことをやっていることを示さなければならない。それが、緑の党が揺れてきた背景ではないか。
実際には冬になると、原発が稼働していても暖房に必要な天然ガスが不足していることが明らかになると思う。それでようやく、脱原発延期は意味がなかったのかと、消費者はようやく実感できるようになる。
その時になれば今度は、政府の失政だと批判されるのだろうと思う。
ウクライナ戦争勃発当初、主に保守政党や保守系メディアがロシアからの天然ガス輸入をすぐに止めろと、声高に主張していた。しかし今、そういう声はまったく聞かなくなった。天然ガス不足で、ドイツの産業界と社会が大打撃を受けることがはっきりしたからだ。
今度は、その矛先が脱原発に向けられたともいえる。
石油が石炭、天然ガスのロシア依存が問題になっても、核燃料のロシア依存が問題にならない不思議について書いたことがある。しかし今、この点を問題にする声はまったく聞かない。
ウクライナ戦争とともに、政治ゲームがより過激になっているともいえる。市民としては、現実を把握するしっかりした目をもっていたい。さもないと、すぐに政治ゲームに巻き込まれ、踊らされやすくなる。
(2022年7月26日) |