ぼくはこれまで、ウクライナ戦争に伴い、ドイツが残り3基の原子炉を今年2022年末で最終停止しないで、稼働期間を延長する問題について書いてきた。書いた記事は、
「ドイツが脱原発延期を再検討する疑問」
「ドイツが脱原発を延期しないわけ」
「原発でガス発電は代用できない」
の3つだ。
原発の稼働期間を延長せよと主張する政治家やメディアは、なぜそう思うようになったのか。それが疑問だ。
その後ろで誰か、原発のためにロビー活動したのだろうか。こう書くと、やはり原子力ロビーかと思う人も多いと思う。
ただぼくは、3つの記事では「原子力ロビー」ということばを意図的に使わなかった。それは、なぜか。
原子力ロビーということで片付けてしまえば、簡単だろう。でも「原子力ロビー」とは、何だろうか。
日本ではすぐに、電事連を中心とした原発を有する電力業界だと思う人も多いと思う。
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ネッカーヴェストハイム原発。写真左から、白煙を上げる冷却塔、福島原発直後の2011年8月に廃炉の決まった1号機(小さなドーム型)、2022年末までに最終停止される予定の2号機(写真右の大きなドーム型) |
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ドイツでは今、原発を有する電力会社にとって、原発維持するのは大きな経済的な負担になっている。誰も、原発の稼働を続けたいとは思っていない。早く脱原発をしたほうがいいとさえ、思っているといってもいい。
ドイツでは再生可能エネルギーの普及とともに、再エネに進出していない大手電力会社は、発電だけでは利益を上げることができなくなった。維持費に莫大なコストのかかる原発はその分、余計な負担だ。
ドイツでは、脱原発のデッドラインが決まっている。電力会社はそれに向け、かなり前から準備をしてきた。人材も育成してこなかった。
この状態で、今になって稼働を延長するといわれても、それに伴って発生するコストは誰が負担するのか。電力業界は、政府が負担するなら、稼働を延長しますよというスタンスだ。
この状況下において、電力業界が稼働延長を求めることは考えられない。では、ドイツの原子力ロビーとは誰なのか。ドイツの原子力産業はすでに、90年代はじめにフランスに売り渡されている。
そうなると、一部の原子力を信仰する技術者や科学者、企業家、市民くらいしか思い当たらなくなる。ごく少数派だといわなければならない。
その少数派に、原子力ロビーとして政治に影響を与えるだけの大きな力があるのだろうか。たとえ原発の稼働期間を数年間延長したとして、電力業界と原子力産業はどれだけの利益を得られるのか。
旨味のある話は、どこにもない。
こう考えると、ぼくは「原子力ロビー」ということばを使うのを躊躇せざるを得なかった。何でも「原子力ロビー」のせいで済ませる一方的な見方は、ポピュリズムでもある。
とはいうものの、ぼくの見方はナイーブで、ドイツの原子力ロビーは大きくて、まだ多大な影響力を持っているのかもしれない。
そうはいっても、脱原発の延期と稼働期間の延長を主張しているのは、一部の保守系政治家、メディア、企業家だ。むしろ、イデオロギーからそういっているとも考えられなくはない。
あるいは、電力システムにおけるガス発電と原子力発電の役割の違いを見ないで、単にそれぞれの発電電力量からしか見ないで、ガス発電の代用として原発を使えばいいと簡単にいっているにすぎないのかもしれない。
こうして見ると、保守派の原子力に対するイデオロギーと電力供給に対する簡単な論理が結びついて、ポピュリズムになっているともいえる。
ドイツ南西部の保守系王国バイエルン州では、風力発電に反対し、他の州にくらべても進展していない。ドイツ北部の風力発電で発電された電力を南部に送電するための高圧送電網の整備にも反対してきた。その結果バイエルン州では、エネルギー不足が心配される状況下で原発が停止されると、電力不足に陥る心配があるのも事実だ。
ぼくから見ると、バイエルン州のケースは自業自得でもあるが、電力の安定供給は国全体で維持されなければならない。
電力システムはとても複雑なもので、簡単に問題はこうだとは断定できない。問題には、たくさんの要因が絡んでいる。それは、一般市民にはわかりずらい。理解してもらえない。だから事実とは異なっても、簡単な論理で主張したほうが、市民の理解を得て、支持されやすいのも事実だ。
この点で、政治やメディアはポピュリズムになりやすくなる。
何ともいやな状況になってきたものだ。
(2022年8月03日) |