2022年9月06日掲載 − HOME − 脱原発一覧 − 記事
ドイツ経済省、原子炉2基を非常時の予備としてキープ

ドイツを含め、ヨーロッパでは電力供給が不安定になっている。こういうと、ウクライナ戦争の影響で、ロシアからのガス供給に問題があるからだと思う人も多いと思う。


実際には、それだけが問題ではない。


気候変動で干ばつになっていることが、大きな問題になっている。干ばつで川の水量が減り、水の温度が上がっているからだ。


その結果フランスでは、原発の約半分が動いていない。ヨーロッパでは、原発が川の水を冷却水として使っているからだ。


水力発電も水不足で、十分に発電できない。たとえばノルウェーで水力発電された電力の輸入量も、減っている。


もう一つは、内陸河川交通が川水位の低下で、十分に機能しなくなっている。その結果、石炭火力発電所で必要な石炭の輸送量が減り、石炭火力発電でも十分に発電できない状況になっている。陸上輸送では一度に輸送できる量に限界があるので、河川交通による輸送をカバーすることはできない。


電力供給を不安定にする要因が、幾つも重なった形だ。


こうして見ると、再生可能エネルギーによる発電方法が現在、一番安定していることがわかる。気候変動による影響には無力なので、再エネに次いでガスをできるだけ多く調達し、ガス発電に依存しなければならないこともわかる。


ネッカーヴェストハイム原発
ネッカーヴェストハイム原発。写真右の大きなドーム型原子炉が非常用の予備としてキープされる予定の2号機。写真左のドーム(小さい方)は、福島原発直後の2011年8月に廃炉の決まった1号機

ドイツでは、今年2022年末までにまだ稼働中の原子炉3基を最終停止させ、脱原発が完結する。問題は、電力の安定供給が緊迫した状況において、原子炉3基を停止してしまって電力の安定供給を保証できるのかどうかだ。


まず電力の安定供給が、需要を満たすだけの発電容量が十分あるかどうかだけで決まる問題ではない。電力を送電する送電網はとても敏感で、取り扱いが難しい。送電網では電力の需要と供給のバランスが取れていないと、送電網が遮断され、ブラックアウトとなる。


電力を安定供給するには、送電網の安定性もとても重要だということだ。


そのためエネルギー担当の経済気候保護省は、ドイツの大手送電会社5社に対し、電力需要がピークとなる今年2022年から2023年春までの冬期における電力の安定供給が確保されるかどうかの鑑定(ストレステスト)を依頼していた。


連系線が大陸全土でつながっているヨーロッパでは、送電網の安定性は、ヨーロッパ全体でみなければならない。ドイツ国内だけの問題ではない。


たとえば冬の寒波が厳しくなると、それだけ電力の需要が増える。特に原発依存度の高いフランスでは電気暖房が多く、寒いほど電力需要が上がる。しかし原発依存度が高い分、電力システムに柔軟性がない。そのため寒波になると電力が不足し、ドイツなどから電力を輸入しなければならなくなる。ドイツは送電網を安定させるためにも、電気をフランスに輸出しなければならない。


ストレステストでは、ここ最近で一番寒い冬となった2012年を基準にして、気候の影響と発電状況、送電網の状況に関して3つのシナリオ(緊迫した状況、非常に緊迫した状況、緊急を要する状況)を想定して、電力の安定供給が確保できるかどうかの鑑定が行われた。


ドイツ送電会社が今年2022年7月に公表した第一回目のストレステストの結果では、原子炉3基を今年年末に停止しても問題ないとの予測が出されていた。しかし昨日9月05に公表されたストレステストは、原発が安定供給に貢献できる度合いは限定されるが、あらゆる状況に備えるには、原発3基をまだ維持したほうがいいと結論した。


その結果と同時に、ドイツ経済気候保護省の方針も発表された。


それによると、残った原子炉3基は予定通り今年2022年年末で停止させる。だが、ドイツ南部に立地するネッカーヴェストハイム原発2号機(バーデン・ヴュルテムベルク州)とイザー原発2号機(バイエルン州)の2基については、非常時の予備として来年2023年4月中頃まで運転可能な状態で維持する。


今回のストレステストの結果によると、非常に緊迫した状況において、ドイツでは原子炉3基が稼働していても、国外において4.6GW分の発電が必要となる。ドイツの原子炉3基はその場合、0.5GW分に相当する発電にしか貢献できないという。その分を国内でガス発電でカバーしても、ガスの需要は0.09%しか増加しない。


ここでは、ドイツの発電容量が足りないから、ドイツが電力を輸入しなければならないのではなく、ドイツは平行して、電気を輸出することにも注意する必要がある。


バーベック経済気候保護大臣は同省の方針について、原発による貢献度と原発に伴う大きなリスクから政治判断したとした。ドイツ北西部で稼働中のエムスラント原発(原子炉1基)については、ドイツ北部では風力発電などで電力が豊富にあり、停止しても電力供給に重大な影響をもたらさない。そのため予定通り、2022年末で最終停止するという。


なお原発を予備力として待機させるとしても、原発はそう早く再稼働させることはできない。稼働と停止を繰り返せば、その分コストも高くなる。


そのためハーベック大臣は、今年11月か12月に電力の安定供給に関して諸々の状況を検討して、再稼働させるかどうか、いつから再稼働するのかを判断し、再稼働の決まった原子炉は、来年2023年4月中頃まで稼働させたままだろうとする。


再稼働しても、燃料交換はしない。今使われている核燃料をそのまま使うだけだ。そのため再稼働しても、発電される電力量には限界がある。


2023年/2024年の冬について大臣は、液化ガスの輸入と再エネ発電の拡大で、十分に対応できるので心配していないとした。


経済省の方針については、脱原発の数年延期を求める保守系野党や政権内自民党などが、かなり反発している。


原発を非常時の予備力として維持する場合、これまで通り、事故の責任は運転者側にあるほか、監督責任は州にあることになる。さらに予備力として原発を維持する経費は、国が負担する。そのため今後、経済省は電力会社と州側とも詳細に調整しなければならない。


それに加え、経済省の方針を実現するには原子力法の改正も必要になる。この問題は、まだまだ政治的な根回しがないと確定しない。


(2022年9月06日)
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関連サイト:
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