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アラブ首長国連邦のドバイで開催されている国連の気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)に合わせ、米国のイニシアチブで出された「原子力発電の設備容量を2050年までに世界で3倍にする」という呼びかけに、米国やフランス、英国、日本それに議長国のアラブ首長国連邦など22カ国が賛同した。
2050年までに二酸化炭素など温室効果ガスの排出を実質ゼロとするカーボンニュートラルを達成するには、原発が不可欠だとの認識だ。
ぼくはこれまで、原発には学習効果がないこと(「学習効果を期待できない原発」)、さらに原発は何らかの支援メカニズムがないと運用できないこと(「欧州委、原発を持続可能と分類」、「原発は資本主義では機能しない」)などの記事で、原発を推進することの問題について書いてきた。
それは、気候変動問題で発電において二酸化炭素を排出しない原発に対する期待が大きくなっていることに対して、警告するためだった。ぼくは、気候変動対策において原発に依存すると、気候変動対策に失敗すると思っている。
それはなぜか?
ぼくは本サイトにおいて、100%稼動をベースにして発電電力量が常に一定の原発と、発電電力量に変動の大きい再エネは、両立しないと警告してきた。しかし今回の呼びかけのように、原発による発電容量を25年後に3倍にするとなると、それよりももっと大きな問題に直面する。
原発の建設には、設計から建設まで長い時間がかかる。安全性を厳重にチェックしていくには、10年で原発が完成することはまずない。完成するまでに20年以上もかかることがある。
それを考えると、このように25年という短期間に原発の設備容量を大幅に拡大するには、原発の建設が何重にも並行して行われなければならない。
しかし世界において、原子炉圧力容器など最大限に安全性が問われる機器を製造できる製造業者は、ごく限定されている。この現実からして、重要な機器を一度に何基も並行して製造することはできない。
原発の建設では、新規参入業者に製造を任せるにはたいへん大きなリスクがある。
机上では、原発の設備容量を3倍にするのはそれほど大きな問題と見えないかもしれない。しかし実際に機器を製造できる世界の製造容量を見ると、25年やそこらで世界の原発の設備容量を3倍にするのは不可能だとしかいえない。
現実からかけ離れた夢のような話だ。
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独リンゲン原発の格納容器。同原発は最終停止後、30年余りかけて廃炉とされた。写真は2012年11月に撮影したもの。この時はまだ、格納容器は30年近く寝かされたまま(安全封鎖)の状態で、格納容器は解体されていなかった |
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この問題は過去においても、認識されてきた。そのためこれまで、原発のルネッサンスが再来すると何回もいわれてきたが、それが現実となったことはない。
その過去の教訓を忘れてしまったのだろうか。
原発が高経年化している現在、古い原発は廃炉されていく。その分をカバーするだけでも、たくさんの原発を新設しなければならない。原発の設備容量を現状維持していくだけでも、たいへんなことなのだ。
そういうと、これからは小型モジュール炉(Small Modular Reactor、以下ではSMRとする)の時代がくるから、過去のようなことにはならないと反論されそうだ。
SMRの問題については、本サイトでもその問題とまだわからないことを9回に渡って書いてきた(「小型原子炉を分散型に応用する矛盾 - 小型原子炉は救世主か(9)」の記事に、各記事のリンクがある)。
SMRで一番心配なのは、各タイプにおいて(高速炉タイプ、高温ガス炉タイプ、溶融塩炉タイプ、加圧水型炉タイプ、IRIS炉など)まだ十分にシビアアクシデント(重大事故)に関して事故解析されていないことだ。
SMRの安全性についてはまだ、はっきりしないことがたくさんある。開発段階のSMRの安全規制について、まったく準備されていないのも当然のことだ。
SMRの安全性問題が解決されていない段階で、SMR導入に突っ走るのは無責任な話である。さらにテロ行為などセキュリティの問題もどうするのか。この問題でもまだ、何も考慮されていない。
SMRによっても、高レベル放射性廃棄物が排出される。しかし世界において、高レベル廃棄物の処分問題はまだ解決されていないところが大半だ。この状況において、SMRなど新しい革新炉を進めるために世界において政治同盟ができるのは、政治的にもまったく無責任としかいいようがない。
SMRは小型炉なのだから、原発の設備容量を増やすにはたくさんのSMRを建設しなければならなくなる。それだけの製造容量は世界にあるのだろうか。これも疑問だ。
SMRの発電出力をたとえば、30MWとしてみよう。現在主流の原発の発電出力は1000MW以上だ。それをSMRで補うには、最低33基以上のSMRが必要になる。SMRによって、原発の設備容量を3倍にするには、何基の小型炉が必要になるのか。数学的に見ると、気の遠くなる話だ。
米国で開発されているSMRの宣伝活動に、日本を含めて各国が踊らされたのではないか。
バカげた話だ。
(2023年12月03日) |