昨年(2022年)6月、7月、8月、3カ月間限定で月額9ユーロ(約1300円)でローカル線と都市公共交通機関の電車や地下鉄、トラム、バスが、どこでも乗り放題となるチケットが販売された。それについては、本サイトで報告した(「9ユーロチケットで、電車、地下鉄、トラム、バスが全国乗り放題」)。
9ユーロチケットは全体で、5000万枚販売されたという。
9ユーロチケットは、ウクライナ戦争によるエネルギーの高騰に対する市民財政支援の一環で行われた。さらに自家用車から公共交通への切り替えを促進して、交通における環境保護を促進することも意図されていた。
9ユーロチケット・プロジェクトが終了すると、その後も同様のチケットを求める声が強かった。
国と州はまず2022年11月、月額49ユーロ(7000円)で、9ユーロチケットと同様、全国でローカル線と都市の公共交通機関が乗り放題となる「ドイツチケット」を導入することで合意した。
そのためには国と州が、財政負担の分配で合意しなければならない。財政負担の分配では、国と州はそれぞれ、年間まず15億ユーロ(2100億円)を負担する。さらに国は自治体に対して、年間10億ユーロ(1400億ユーロ)の財政支援を行う。ローカル線と都市公共交通は主に、州と自治体の補助で運行されているからだ。
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ドイツ鉄道の赤い列車はローカル線の列車。二階建車両が多い |
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問題は、49ユーロチケットの開始時期だった。それぞれの地域で、49ユーロチケットを導入するための準備に要する時間が異なったからだ。それについても、国と州は2023年1月、2023年5月1日からとすることで合意した。
最終的に49ユーロチケットがスタートするには、欧州委員会のゴーサインが必要となる。ただ、欧州委が同意するのは間違いないと見られる。
交通における環境政策としては、ドイツチケットは画期的なもの。しかし社会的に見ると、問題がある。
というのは、月額49ユーロは低所得者など弱者には負担が大きすぎるからだ。その点では公平とはいえず、格差を生む心配もある。
通勤者用には別途、雇用者との間で割引が規定されている。さらに学割を導入することも決まっている。しかし弱者に対する割引等の措置は、各州の判断に委ねた形になっている。
ドイツチケットは、ドイツ鉄道の運行する長距離列車(たとえば、ICE、IC、EC)と私鉄の長距離列車(Flixtrain)を対象外とする。
(2023年1月28日)
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