ぼくは「急激な原発拡大は自殺行為」の記事などにおいて、今後原発を拡大することのリスクについて警告してきた。これは、ぼくが30年以上に渡ってドイツとヨーロッパで原発の問題について取材してきた経験からいっている。
2000年代、東欧諸国を中心に原発のルネッサンスが叫ばれた。その時も、東欧諸国を回って取材した。ほとんどの国で、原発を新設したいといわれた。
しかしぼくの結論は、原発のルネッサンスは起こらないだった。東欧諸国には、原発を拡大するだけの人材が不足している。監督機関と電力会社に、原発を拡大するだけの余力がないと思ったからだ。実際ぼくの思った通り、原発のルネッサンスは起こらなかった。
ぼくはジャーナリストとして、原発の問題は原発支持派と反原発派の両方から見て、できるだけ中立に主張しているつもりだ。しかし原発支持派からすれば、ぼくは反原発活動家。反原発派からは、間違っていることは間違っているとはっきり指摘するので、原発を支持していると見られることも多い。
原発支持派も反原発派も、自分たちの主張にあった情報しか見ていない。自分たちの考え方に合うものだけを物色しているともいえる。反原発派では、いつも同じサークルや人たちと意見交換や情報交換をしていることも多い。
それでは、見方が偏ってしまう。原発を反対する人の中にも、いろいろ意見がある。それに耳を傾けないと、セクト化してしまう危険がある。
ぼくはこういう立場から原発問題を見てきたが、結局、原発に反対することになっている。ポピュリズム的に主張してきたつもりはない。事実をベースにしてきたつもりだが、そう思われていない気もしないではない。
たとえば、毎年発表される「World Nuclear Industry Status Report」というのがある。個人的にも面識のあるミヒァエル・シュナイダー(日本では、英語読みでマイケル・シュナイダーといわれている)を中心にしたグループが、各国の統計など公式のデータや専門家の論文など2500以上の参考文献をベースにして作成している。
レポートは中立的に見て、世界の原発の現状について報告する。しかしミヒァエルも結果として、原発に対して批判的になるので、反原発活動家としてレッテルを貼られている。
原子力産業や原子力ロビーの主張とは関係なく、中立的な立場から専門的に原子力の現状を把握するという意味で、World Nuclear Industry Status Reportはとても大切な資料だ。ドイツの環境省など公的機関も、レポート作成プロジェクトを支援している。
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廃炉によって撤去され、中間貯蔵施設に保管されている原子炉圧力容器の頭部分。廃炉中のドイツ北東部のグライフスヴァルト原発で撮影 |
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メディアにおいては一般的に、ドイツが脱原発政策によって原発を止めてきた以外は、原発が新設されるとニュースになるが、原発が停止されてもニュースにはならない。
その結果一般的には、原子力産業や原子力ロビーが望むようにあるいはそう策略するように、原発が増えているという『原発推進物語』がつくられていく。しかし現実は、どうなのだろうか。
昨年2023年12月に発表された"World Nuclear Industry Status Report 2023"によると、2023年中頃の時点で、世界全体で407基の原発(正確には原子炉)が稼働していた。発電量全体の9%が原発によって発電されていたという。ただエネルギー消費全体から見ると、原子力の割合は5%にすぎない。原子力は、自動車の動力燃料として使われず、一部の東欧諸国を除いて熱を供給しないからだ。
ここで注目すべき点は2002年以降、原発は新設されるよりも、廃炉になっているもののほうが多いことだ。原発の数が減ってきているということだ。
レポートによると、中国の原発の状況を統計から除くと、原発減少の状況はもっと加速しているとする。2002年から20年余りの間に世界全体で、原発は50基以上減った。2002年以降において新設と廃炉の数を差し引きすると、50基以上の差がでるということだ。
それと同時にレポートは、原発の高経年化、つまり老朽化が進んでいることを警告する。原発の建設が高騰しているうえ、安全規制も厳しくなっているので、原発の新設が増えない。その結果原発を維持するには、既設の原発をより長く稼働させるしかない。
それで、原発の安全性が維持されるのか。レポートは、各国の原子力監督機関が最大限の注意を払ってこの現状を監視しなければならないと警告する。
これが、今の世界の原発の状況だ。これでどうして、今後25年の間に原発の発電容量を3倍に拡大することができるのか。
(2024年4月12日) |