これまで、ウクライナ戦争に伴うドイツのエネルギー問題について何回か書いてきた。ドイツでは、ロシアからの天然ガス依存が一番大きな問題になっている。その結果、ガス価格が高騰。経済界と社会生活に大きな影響を及ぼしている。

EUの経済制裁の対象になっているエネルギー源は、石油、石炭、それに天然ガス。天然ガスについては、時間をかけてロシア依存から脱皮する計画だ。

ぼくはそれに関連して、ヨーロッパでは原子力発電もロシアに依存していることを簡単に書いたことがある。

ここでこの問題について、少し詳しく書いておきたい。

原子力発電におけるロシア依存は、東欧諸国で目立つ。東欧諸国が旧ソ連圏に属していたのだから、稼働している原発は主に、旧ソ連製だ。それは、当然だろうと思う人も多いと思う。

EU加盟国では、旧ソ連製の原発がチェコとスロバキア、ハンガリー、ブルガリアで稼働している。

チェコのテメリン原発では、核燃料の燃料集合体をロシア製ではなく、米国ウェスティングハウス社製を使っていたことがある。しかし、東側の原子炉に西側の核燃料が技術的に適合しない問題が発生。ロシア製に変更した経緯がある。

上記東欧4カ国で稼働中の旧ソ連製の原発ではすべて、ロシアから核燃料を調達している。原子炉の部品などについても、ロシアの原発技術から抜け出せず、ロシアから調達しなければならない。

戦争状態にあるウクライナの原発も、旧ソ連製だ。しかしウクライナは戦争のはじまる前から、核燃料の燃料集合体をウェスティングハウス製に変更する準備をはじめていた。ウクライナは今年2022年6月、ウクライナの原子炉全基の燃料集合体をウェスティングハウス製とする契約を締結している。

とはいえウクライナにおいても、旧ソ連製の原子炉が稼働している限り、ロシアの原発技術から完全に抜け出すことはできない。

	この冷却塔はガス発電所の冷却塔だが、そのすぐ向かいにエムスラント原発があり、その横に燃料集合体製造工場がある。ガス発電所は、廃炉となったリンゲン原発跡地にできたものだ

冷戦時代のソ連と東欧諸国の関係からすれば、前述した問題は想定できると思う。しかし核燃料におけるロシア依存は、それだけではない。目立たないが、東欧諸国よりも西側諸国のほうが核燃料においても、ロシアに依存しているといわなければならない。

ドイツ北西部リンゲンに、核燃料の燃料集合体製造工場がある。工場は、まだ稼働中のエムスラント原発（2022年末で最終停止の予定）の横に立地する。

工場は、フランスのフラマトム社の子会社アドヴァンスド・ニュークリア・フュエルス社（ANF）が運用する。

ここでは、6フッ化ウランが核燃料の成型加工用の原料として使用される。その6フッ化ウランが、ロシアの国営原子力企業ロスアトム社から供給されている。

この週末には、ロシアのサンクト・ペテルブルクからオランダのロッテルダム港に6フッ化ウランが到着しているはずだ。6フッ化ウランはそこからさらに、リンゲンにトラック輸送される。

ドイツの環境団体BUNDによると、EUで使われる自然ウランの20％がロシアから、さらに20％がカザフスタンからもの。濃縮ウランの26％も、ロシアから輸入されている。

独リンゲンで製造された燃料集合体は、フランス、ベルギー、スイス、オランダ、スペイン、英国、スウェーデン、フィンランドの原発で使用されている。

表向きは、ドイツ製の燃料集合体だ。だがその核燃料と製造に、原料をロシアから調達していることがわかる。

ここでおかしいのは、ロシアの原子力技術、核燃料は、EUの対ロシア経済制裁の対象にはなっていないことだ。その点で原子力は、石油や石炭、天然ガスのエネルギー源よりも優遇されている。

フランスが、核燃料を経済制裁対象から除外することを強く推したという。エネルギーのロシア依存からの脱皮を主張しながら、原子力だけは別格扱いされている。

ドイツ国内では保守・右翼系野党や与党の自民党が、今年2022年末で停止される予定の原子炉3基をエネルギー供給危機の問題から、後もう数年延期して稼働させるすべきだと強く主張している。

でもそれでは、エネルギーのロシア依存から抜け出すことができない。原子力維持を主張するのは、ウクライナのためのEUの連帯性と経済制裁の原則にも反する。