ドイツでは昨年2023年4月15日を持って、研究炉を除きすべての原発が停止された。ここで原発は、小型の実証炉、商用炉のことをいっている。
脱原発を達成したドイツでは、それで終わったわけではない。原発に残り、放射能で汚染されたものがすべて処分されない限り、脱原発が終わったことにはならない。
こともあろうに、そのドイツで原発復活論が再熱している。ドイツ南部バイルン州の右派政党で、同州で州首相を出すキリスト教社会同盟(CSU)は今年はじめにあった党の年始会議において、原発の復活を党是にすると決定した。
ドイツではこのように、保守系政党と保守層で原発の復活を求める声が強くなっている。
ただそこでは、止まった原発を再稼働させたいのか、原発を新設したいのかははっきりしない。
新設は、世論が納得しない可能性もある。たとえ新設となっても、計画から稼働するまでに順調に進んでも20年近くかかる。その時には、電力供給のほとんどが再生可能エネルギーによって行われているのは間違いない。それでは、莫大な投資をして原発を新設する意味がない。
次に、停止された原発は今、どうなっているのかを見てみよう。
管轄の放射性廃棄物処分安全庁の資料(2024年1月現在)によると、すべての原発から廃炉の申請が出されている。そのうち、廃炉が認可されていないか、認可されていても廃炉工事がはじまっていないのは5基しかない。
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廃炉中のドイツ北東部のグライフスヴァルト原発では、中間貯蔵施設に蒸気発生器や圧力容器がたくさん貯蔵されていた。放射線量が下がった段階で、それぞれ破砕され、除染される |
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古い順にいうと、クリュムメル原発(2011年8月06日停止)、グローンデ原発(2021年12月31日停止)、ブロックドルフ原発(2021年12月31日停止)、イザール原発2号機(20123年4月15日停止)、エムスラント原発(20123年4月15日停止)である。
クリュムメル原発に関しては、2011年のフクシマ原発事故直後に仮停止され、法的には同年8月06日から正式に停止されたことになっている。廃炉はまだ認可されていないが、2038年までに廃炉を完了する計画だ。
クリュムメル原発は周辺地域で白血病の増加も認められ、同原発が再稼働される可能性はほぼない。
グローンデ原発には廃炉が認可されているが、廃炉工事ははじまっていない。
2021年末と2023年4月にそれぞれ3基が最終的に停止しているが、そのうちそれぞれ1基がすでに廃炉工事に入っていることもわかる。
こうして見ると、まだ再稼働が可能かもしれないと思われるのは、クリュムメル原発以外の4基かと見られる。
そのうちイザール原発2号機だけがドイツ南部にあり、それ以外の3基は北西部にある。
しかしドイツ北部のエリアは風力発電が盛んで、いつも発電された電力を地元地域だけでは消費しきれず、ドイツの南部に電力を送電している。しかし南北をつなぐ送電網の送電容量は小さい。
この状態でドイツ北西部において原発を再稼働させると、ドイツ北西部で発電される電力が増えるばかりだ。その結果、これまで以上に電力を南部に送電しなければならなくなるが、送電網にはそれだけの電力を運ぶだけの容量がない。
それは、何を意味するのだろうか。
ドイツ北部から南部に送電される電力が多すぎて、南北をつなぐ送電網が不安定になるということだ。
昨日2024年1月15日も、ドイツ南西部の送電会社はドイツ南西部の地域に節電を要請したばかりだ。それは、ドイツ北部から南部に送電される電力量が多すぎて送電網のバランスが崩れ、送電網が不安定になるからだった。
南部で節電することによって北部から南部に流れる電力量を下げて送電網を安定させるのが、節電をアピールした目的だった。
節電が不十分でも、ドイツ南部で隣国から電力を買って南部の需要を満たせば送電網は安定する。
原発復活論から原発を再稼働させれば、昨日のようなことが頻繁に起こるようになる。
再稼働によって北部で発電電力量が増えるので、南北をつなぐ送電網を安定させるためには、北部で電力を隣国に売るか、南部で節電するか、隣国から電力を買わなければならなくなる。
ドイツ南部のイザール原発2号機だけを再稼働させれば、こういう問題は多少緩和される。しかし発電出力が150万kWの原発1基だけを再稼働させたところで、電力システム上のメリットは小さい。そのための経済的負担が増えるだけだ。
保守系政党や保守系メディアはこうした現実を無視して市民に伝えず、保守層を原発復活へと扇動しているとしか思えない。
無責任で、困ったものだ。
(2024年1月16日) |