ドイツでは2023年4月15日をもって、すべての原子力発電所が停止した。もう稼働している商業炉はない。
しかし依然として、保守系野党や経済界の一部から原発復活を待望する声が消えない。世論調査でも、約60%は原発復活に賛成している。
原発復活論を唱える政治家は原発のことを知らないまま、ポピュリズム的に議論している場合が多い。そういう政治家は、ドイツで原発復活キャンペーンを続ける大衆紙ビルト紙と同じことをいっている。ビルト紙だけを読んで、そう主張しているのではないか。そうしか思えないことも多い。
そこで今回は、ドイツで原発が復活する可能性は実際にあるのかどうか。それを分析してみたい。
ドイツでは、今年2023年4月に止まったものも含め、すべての原子炉に対して廃炉申請が出されている。すでに廃炉許可が下りて、廃炉工事が進んでいるものが多い。廃炉の許可が出ていなくても、廃炉許可手続きがはじまっているということだ。今年4月に止まった原子炉にはまだ、廃炉許可は出てないと思う。
廃炉は廃炉申請の審査後、許可が出ないとはじめられない。ドイツでは廃炉は、即時解体しか認められなくなったので、原子炉ではすぐに解体工事に入る。
廃炉工事にはだいたい、10年くらい予定されている。しかし実際には、もっと少し時間がかかるだろうと、ぼくは思っている。
原発を復活させるには、できるだけ早く復活を決定し、廃炉工事に入らないように決定されなければならない。そうしない限り、原子炉がすぐに解体される心配がある。
しかし現在の中道左派政権が、原発を復活させることは考えられない。原発を復活させるには、2025年秋に行われる総選挙で政権が交代するまで待たねばならない。しかしそれまでに、すべての原子炉で廃炉工事がはじまっている可能性が高い。
それだけを見ても、ドイツで原発が復活する可能性は小さい。
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ドイツ北西部のリンゲン原発では停止後、放射線量が高くて危険な原子炉圧力容器などを放射線量が下がるまで原子炉の中に寝かせておく安全貯蔵という方法で廃炉が行われた。そのため、格納容器(写真真ん中の白いドーム)が30年以上も残っていた。しかし現在はドイツではもう、安全貯蔵による廃炉は行われない。こうして格納容器が長い間、寝かされた状態になっているのは考えられない |
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廃炉申請が停止後すぐに提出され、電力会社側が廃炉工事を早くはじめたいのは、なぜか。
それは、電力会社にバランスシート上の問題があるからだ。ドイツでは、原子炉から核燃料をすべて取り出した時点で、原発はバランスシートから資産として取り消される。
原発は資産としては、大きい。それがいきなりバランスシートから消えてしまうと、電力会社の資産価値が急に減ってしまう。そうなると、電力会社は敵対的買収の対象になりかねない。
それを事前に防ぐため、電力会社は廃炉に向け、かなり前からバランスシート上で原発の資産価値を順次減らしていく準備をしている。
この点でも、一旦停止してしまった原発を復活させるのは、かなり難しい。
最終停止した原発を復活させるにはさらに、高い法的なハードルもある。
一旦停止した原発を再稼働させて復活させる場合に一番問題になるのは、10年ごとに行うべき安全性評価が本来だと2019年に実施されなければならなかったが、2022年末までに最終的に停止することを条件に免除されていたことだ。
そのため原発を復活させるには、安全性評価を実施して、安全性が再確認されなければならない。そのためには、数年間の準備期間が必要にるほか、莫大なコストもかかる。
この問題を回避するため、安全性評価の規制を緩和することも考えられないことはない。しかしそれは、これまでの原発の安全性管理を否定することにもなる。その点で、政治的なハードルはかなり高い。
たとえ停止した原発を再稼働させても、現在の自由化された電力市場では、原発で発電した電力を売電するだけでは利益が上がらず、ビジネスとして赤字になる可能性が高い。
それでは、原発のメンテナンスする資金も出ない。原発の安全性を維持するためには、政府が資金を提供するか、日本のように発電所の発電容量に資金を提供する容量市場を設けて、売電以外に資金調達する制度を新たにつくらなければならない。
それには時間がかかるし、それでうまく機能する保証もない。
その他にも、ドイツで原発復活が無理だと思われる要因がある。しかしこれだけの要因を挙げるだけで、ドイツにおいて最終停止した原発を復活させるのがいかに難しいかがわかると思う。
ドイツではもう、原発は復活しないと思う。
(2023年10月10日) |