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欧州連合(EU)の欧州委員会フォンデアライエン委員長は2026年3月10日、パリで行われた原子力産業の会議において欧州において原発を停止して減らしたことは「戦略ミス」だったと発言した。さらに、現在開発中の小型モジュール炉(SMR)によって原子力発電がより安全で、より安価になることも期待するともした。
この発言が本当に事実に基づくものなのか、ここで検証しておきたい。
エネルギー依存
欧州委員会委員長は、ウクライナ戦争、イラン戦争によって石油や天然ガスの化石燃料をロシアや中東諸国に依存しているヨーロッパの現状を問題化し、こう発言したのだった。
ヨーロッパの発電における電源構成では、1990年には原子力が全体の3分の1を占めていた。それが現在、その半分以下になっている。
それは、チェルノブイリ原発事故、フクシマ原発事故で、ドイツを中心に脱原発を決定する国が出てきたほか、原発の老朽化で古い原発が停止されてきたからだ。
しかし停止された原発に代わる新しい原発の建設に長い時間がかかっているほか、代替エネルギーとして期待された再生可能エネルギーへの転換にも時間がかかっている。特に、再エネ発電による発電の変動をカバーする技術開発に手間取っている。
しかしフォンデアライエン委員長は、原子力発電の燃料となるウランのロシア依存の問題については、一切口にしなかった。
欧州は必要なウランの約15%をロシアに依存している。それをさらに濃縮するには六フッ化ウランに加工する必要がある。たとえばドイツの場合、ウランを濃縮して核燃料集合体を製造するために必要となる六フッ化ウランのほぼ100%をロシアから輸入している。
ぼくはウクライナ戦争直後に記者会見で、欧州議会の最大議員団である保守系欧州人民党グループ(EPP)のマンフレード・ヴェーバー議員団長(ドイツ)に、ウランのロシア依存を問題にしないのかと質問したことがある。そうすると議員団長は、それをすると自分の首を絞めることになるのでタブーだと答えた。
原子力依存の高いフランスは、原子力産業のフラマトム社がロシアの原子力産業ロスアトム社とジョイントベンチャーを設立して、旧ソ連製原発に依存する東欧諸国向けに燃料集合体を製造することになった。
フランスのマクロン大統領は、ウランのロシア依存を解消するため、ウランの輸入を多元化すると発言しているようだが、実際にはむしろロシア依存を高めているといわなければならない。
いずれにしてもウランは、ロシア以外のカナダやカザフスタン、オーストラリアなどから輸入しなければならない。しかしそうなると、戦争時に輸送の問題が起こる可能性があることがイラン戦争でもはっきりした。
ぼくは以前から、再エネへの転換は安全保障政策だと主張してきた。戦争のことを考えると、再エネによって自国においてエネルギーを自給自足するのが一番安全なことをフォンデアライエン委員長は発言していない。
それは、そう認識していないのではなく、原発を復活させるためにむしろこの現実を意図的に黙認していわない戦略なのだと思う。
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廃炉によって撤去され、中間貯蔵施設に保管されている原子炉圧力容器と蒸気発生器。廃炉中のドイツ北東部のグライフスヴァルト原発で撮影 |
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小型モジュール炉(SMR)
1) 安全性の問題
小型モジュール炉(SMR)は、アルゼンチン、カナダ、フランス、インド、ロシア、韓国、英国、米国などで開発され、建設の計画ないし意思表示しているところがある。
しかし開発されているSMRは、これまでの大型原発のように軽水炉ばかりではない。高速炉、高温ガス炉,溶融塩炉、熱中性子炉など非軽水炉も多い。
それぞれの炉の種類に応じて、科学的に安全性が評価されたのだろうかという疑問が残る。安全解析ばかりでなく、シビアクシデントの可能性、事故解析などSMRの安全性は透明性のある形で、しっかりと解明されなければならない。
ドイツ環境省下の放射性廃棄物処分安全庁(BASE)が委託した小型炉構想の評価スタディによると、特に軽水炉以外の構想において、小型炉の運転から処分までの安全性が十分評価されていない問題があるとする。
原子炉が小型なことから、大型の原発に比べると原子炉ごとに使われる核燃料の量が少ないので、その分安全な可能性がある。しかし大型原発と同量の発電量を確保するためには小型炉が多数必要になり、その分事故の頻度が高くなる可能性が高いとする。
同スタディの試算では、現在のように約400基の大型原発による世界の原子力発電の発電容量をSMRで実現するには、3000基のSMRが必要になるという。
SMR製造メーカーのデータからすると、小型といえ原発敷地外に影響があるものとして原発事故災害計画を立案する必要もある。
2) 経済性の問題
SMRの経済性についても、しっかり解析されてきたわけではない。軽水炉型SMRを開発している米国の新興企業ニュースケールパワー社は、米国アイダホ州で予定されていた建設計画を2023年11月に中止した。アイダホ州の国立研究所にSMR6基(1基当たりの発電出力は8万キロワット弱)を設置して、2029年から稼働する計画だった。
しかし多額の補助金を投入しても、SMRの発電コストが高く、再エネで発電された電力に比べ、価格競争力がないことが判明したという。
ニュースケールパワー社はそれを、資材高騰によるものだとした。しかしぼくはすでに2021年に指摘したように、SMRの採算性のなさは資材高騰によるものではなく、SMRの構想そのものに採算性がないからだと思う。
前述のスタディは、SMRが経済的に採算が取れるようになるのは、学習効果などコスト減となる要因を考慮しても、平均で3000基のSMRがまず建設、運転されてからになるだろうと予想する。
既存の大型原発は、国家による補助と電力会社の発注によって建設されてきた。それは、最初の原発が稼働して70年経った今も変わらない。SMRについてはこれまで研究開発からスタートアップなどが生まれてきているが、同スタディは大型原発と同様、長期の国家補助がない限り、SMRは経済的には自立できないだろうとする。
SMR製造メーカーや推進派は、SMRの開発と建設、廃炉、放射性廃棄物の処分がこれまでの大型原発より楽で短い期間で可能なので、コスト減になるとしている。しかし前述のスタディは、これらSMRに伴う問題はこれまでの経験知では判断できず、これらに必要な期間が現在想定されている期間よりも数倍になる可能性が高いとする。
建設期間も短く、安価に設置できることが売りのSMRだが、それが、まったく幻想であることがわかる。
3) 許認可の問題
SMRは自動車のように型式承認されて、どこでも設置できるようにすることが考えられている。
しかしこれまで原発の設置は立地場所ごとに建設許認可を申請して審査が行われ、立地場所ごとに仕様が立地条件に合わせて調整されてきた。原発の設置に関しては、国際的に統一された標準はない。
さらに立地場所ごとに、電源開発に伴う基本計画上の審査を受け、環境アセスメントなど環境への影響についても審査されなければならない。
建設後稼働されても、定期検査や保安検査の問題などを国際的に統一するのか、各国個別にするのかなども判断しなければならない。
SMRが型式承認されると、これら法的な手続きはどうなるのか。これについては国際的に共同で検討しなければならず、長い時間が必要になるのは間違いない。国際的に合意できるかどうかもわからない。
4) 核兵器の問題
SMRでは、たくさんの原子炉がたくさんの地域に分散される。それは、核拡散を意味する。核拡散防止条約(NPT)は核拡散を禁止しているが、この問題にどう対応するつもりなのか。
さらにSMRの中でも、水で冷却しない原子炉にはこれまでの濃縮度よりもウランをさらに高濃縮する。プルトニウムも核燃料として使うことが想定されているので、使用済み燃料の再処理も必要になる。
しかし現在、世界で再処理工場がまともに稼働されているのはフランスのラ・アーグの再処理工場くらい。日本の六ヶ所村に建設された再処理工場は着工後30年以上経っていても、いまだに稼働できない状態が続いている。
テロが拡大しているだけに核拡散の問題を考えると、治安、保安の問題を十分に解決しない限り、SMRは設置すべきではない。またそれは、コスト増の原因となる。
こうして見ると、欧州委員会フォンデアライエン委員長は事実に則して発言したのだろうか。
していない!それで、原子力の縮小を「戦略ミス」と断定できるのか。できないはずだ。
(2026年3月15日) |