2021年3月03日掲載 − 放射線防護
福一原発事故から10年、大人の甲状腺ガン検査が必要

東日本大震災、福島第一原発事故から、まもなく10年になろうとしている。日本では一部の人たちを除くと、震災と原発事故のことがすでに忘れられようとしていると思えてならない。


ドイツでも一部を除くと、今フクシマはどうなっているのか、もうあまり関心がないと思う。それが現実だ。


関心のあるのは、主に原発に反対している人たちだけということになる。でもドイツでもフクシマ10年に際して、いろいろな催し物が企画されている。それはそれで、頼もしい。


脱原発を決めたドイツ。でもそれで、すべてが片付けいたわけではない。廃炉や放射性廃棄物の処分など、原子力の問題はまだまだ山積み。原子力の問題は、長い間に渡って続く。


ドイツでは今、高レベル放射性廃棄物の最終処分場を住民参加で選定するためのプロセスがはじまったところだ。それについては、本サイトの脱原発の項で報告している。


こうした現実があるにも関わらず、一般市民はもう原発の問題には関心を持とうとしない。最終処分地の具体的な候補地が選出されるまで、ドイツでもこういう状態が続くと思う。


でも、廃炉や最終処分の選定は今も進んでいる。どうすれば、一般市民にも原発問題に関心を持ってもらうことができるようになるのか。


それは、とても難しい課題だ。


原発問題に対する市民の関心が薄れた中、政府機関は問題にどう対処し、解決しようとしているのか。ぼくには、それが気にかかる。市民の関心がないことをいいことに、規制がルーズになっては困る。原発問題は、いつまで経っても政府のやることを監視しておく必要がある。


フクシマのことでも、ドイツの政府機関はどう思っているのだろうか。政府のことだから、高が知れていると思うかもしれない。でもぼくは、それも見ておいたほうがいいと思う。


ドイツではフクシマ10年に際して、ドイツ環境省とその下級官庁になる放射線防護庁、最終処分庁などが記者会見や会議を企画している。すでに記者会見が2回あったので、そこからドイツ政府が今、フクシマの問題から何を学び、どう見ているかの一コマを報告しておこうと思う。


ドイツ環境省ヨッヘン・フラスバート事務次官:

フクシマは、3つの被害が重なったことが悲劇だった。地震、津波、原発事故だ。

ハイテク国の日本で原発事故が起こったことは、原子力は何を持ってしても制御できないことを示した。それは、大きな政治的なショックをもたらした。それがドイツで、戦後はじめて脱原発を社会的なコンセンサスとして決定するきっかけになった。

ドイツでは現在、原子炉が6基稼働している。2022年末までにすべての原子炉が最終的に停止する。それは、政治的に正しい決断だった。

原子力に依存するのは、エネルギー政策上将来性がない。

原発新設するにはたいへん長い時間を要し、とても高額な投資を必要とする。それでは、緊急性を要する気候変動問題には対応できない。原子力の利用が気候保護のためになるとするのは、まったくの間違いだ。


ドイツ放射線防護庁インゲ・パウリーニ長官:

福島第一原発事故の結果、50人以上の人が自殺し、2000人以上の人が亡くなった。自殺の原因は主に、事故による精神的な負担によるものだ。その他に亡くなったのは、多くは避難によるもの。避難者に十分な医療を施すことができなかったからだ。

甲状腺ガンについては、事故後調査されているが、放射線と健康影響の関係はまだ認められない。ただこの点では、まだ結論を出すのは早い。長期的な調査が必要だ。


甲状腺ガンの調査は、こどもや若者に対してだけ行われている。大人に対しては、甲状腺ガンの調査が行われていない。そのためぼくは、今後大人の甲状腺ガン調査は必要かと聞いた。


すると長官は、放射線の影響が現れるには時間がかかるので、今後は大人の甲状腺ガンの調査も必要だとした。


このドイツ放射線防護庁の見解は、国連UNSEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)の報告に準じたものと、ぼくは見ている。


ドイツ放射線防護庁放射線影響調査部部長で、UNSEAR報告者のフローリアン・ゲーリンクさんには、もっと突っ込んで聞いたことがある。


UNSEARは、初期被ばくのデータとして日本政府が提示したデータを使っている。でもそのデータが間違っていたのは、すでに日本の科学者が証明している。さらに、放射線と甲状腺ガンの関係については、地域の放射線量が高くなるほど、甲状腺ガンが多くなるなど、放射線と甲状腺ガンの因果関係を立証した科学者の論文がすでに国際的な専門ジャーナルにいくつも掲載されている。この現実をどう見るのか。


ゲーリンクさんは、結構興奮してこう答えた。


そうした論文が出ているのは確かだ。しかし、UNSEARの判断は間違っていない。放射線被ばくを原因とした甲状腺ガンの罹患は認められない。


放射線と甲状腺ガンの因果関係を立証した科学者の論文のリンクのいくつかを、以下に挙げてある。その論文の著者の一人ハーゲン・シェアブさんは、元ドイツの(日本でいえば)国立研究所の研究者で、統計解析の専門家。定年退職後も研究を続けている。


ハーゲンさんによると、大まかに見ると、甲状腺の被ばく線量1ミリグレイ(mGy)当たり甲状腺ガンのリスクが1%高まるという。


ぼくはこの現実を、無視してはならないと思う。


(2021年3月03日)
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関連サイト:
放射線量と甲状腺ガン罹患の関連性を示す論文事例
• Thyroid Cancer Following Childhood Low-Dose Radiation Exposure: A Pooled Analysis of Nine Cohorts
• Association between the detection rate of thyroid cancer and the external radiation dose-rate after the nuclear power plant accidents in Fukushima, Japan
• A comment on: ‘Absorbed radiation doses in the thyroid as estimated by UNSCEAR and subsequent risk of childhood thyroid cancer following the Great East Japan’
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