ドイツでは、農地に風力発電施設が設置されているのをよく見かけます。農地の一角に、風車がたくさん並んでいるとこともあります。
農地を所有する農家は、その土地を風車の所有者に賃貸して、賃貸料を得ます。風車を設置する時に農道などを整備してくれるので、農家にとっては風車によって副収入が入るし、農道も整備されるので、一石二鳥だとよく聞きました。
ドイツの農地は、広々とした平地にあります。その分、風の通りがよく、風力発電を行うには効率がいいと見られます。
農地は、住宅地からも離れています。その分、風車が回って発生する低周波による騒音公害や風車の影による影響もありません。
こうしたことを見ると、農地は風力発電に適しているように見えます。
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農地に設置された風力発電施設 |
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ぼくはドイツ北西部で再エネ自治体を取材している時、自分たちの農地に共同で風力発電施設を設置した農民と知り合いました。自分たちが風力発電事業者となった農民。ぼくは、たいへん関心を持ちました。
ぼくはその農民に、なぜ農地を賃貸せずに、自分で風車を設置して発電するのかと聞きました。農民は、こういいます。
農地に風車を設置することは、農民にとって農地の価値を下げることになるのです。それは、農民にとって屈辱です。自分の農地に傷をつけることになるからです。
傷のついた農地は、自分の息子に引き継ぎたくなかった。
だから、農地を賃貸したくなかったのです。でも風力発電によって副収入が入って農業が安定するなら、それはいいことです。それなら、農民自らが風力発電するべきだと思いました。
そうすれば、農地を息子に引き継いても、後味の悪いをすることはないと思いました。
ぼくにとって、この時の話はショックでした。それまで、農業に副収入が入るのだから、風力発電は農業にとっても得な話しだとしか思っていなかったからです。
ぼくが小さい時育ててもらった祖父は、肥料屋をしていました。その関係でぼくは、小さい時から子供ながらにも農業を見てきました。この農民の農地に対する気持ちは、農民でないぼくにも納得できたと感じました。
ぼくはそれまで経済的な問題だけを考え、農民の気持ちまで考えたいませんでした。農民と話していて、恥ずかしくなりました。
(2020年8月19日)
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