2021年11月23日掲載 − HOME − 脱原発一覧 − 記事
日本の原発政策は人材を無視していないか

前回少し、原発をめぐる社会構造から独仏の構造比較を試みた。その結果、政治と経済が分権化、分散化されているドイツにおいて、原発を基盤にした利権構造がそれほど強固になっていないことがわかった。それが、ドイツで脱原発を実現しやすい構造的な要因にもなっている。


日本とフランスは、中央集権的に原発を巡る利権構造がしっかりと強固に構築されている。頑丈な利権構造から脱皮するのは、そう簡単なことではない。


日本の場合、電力構成における原発の割合はむしろドイツに近い。それなのに、なぜ日本で脱原発が難しいのか。


それはむしろ、石炭火力発電も見ればわかると思う。


今年2021年にグラスゴーで行われたばかりの環境サミットCOP26を見てもわかるように、日本は石炭火力発電にも固執続けている。先進工業国において、電力構成において石炭火力発電の割合が増大しているのは、日本だけだ。これは、世界的にもとても特殊な構造だ。


これは日本において、原子力発電ばかりでなく、石炭火力発電も地方経済を支える基盤になっているからだと思う。ぼくが以前、九州電力の社員と話をしていた時、九電は九州における最大雇用主だと豪語していたことを思い出す。その発言はぼくには傲慢に聞こえ、ちょっと驚きだった。


地方が発電に依存しているのは、いろいろな産業が地方に分散されていないからでもある。日本の経済が大手企業を頂点に系列化した縦構造になっているのも、大きな弊害だ。


それでは、脱原発も脱石炭火力もとても難しい。日本が、アンモニアや水素を石炭火力発電に使うほか、石炭火力発電に二酸化炭素貯留技術(CCS)を組み合わせて、石炭火力も維持し続けようとしているのは、そういう日本独特の構造があるからに違いない。


福一の煙突
写真中央に見える煙突が事故原発福島第一原発の煙突だ

ただここでは、既得権益構造を維持、継続していくことしか考えられていない。その構造を維持して、いつまでも地方において雇用を維持したいかのように見える。


でも、現実はどうか。


福島第一原発で事故があってから、まもなく11年になろうとしている。その後日本の原発はすべて停止され、再稼働された原発はまだわずか。その他の原発では、日本政府や電力会社の思惑とは異なり、再稼働はまだ難しい状況にある。


廃炉を決定できずに再稼働を期待して、稼働できない原発において一体何人の人が働いているのだろうか。原発は稼働していなくても、廃炉しない限り、維持とメンテナンスのためにたくさんの人材を必要とする。


日本政府が発電による既存構造を維持するため、原発で働く人材は、いつ再稼働が可能となるかの見通しもなく、ただ原発でルーチン作業を続けている。


もしこの間に職業訓練をして新しい職を身につけておれば、原発で働く人材には、とっくの昔に新しい仕事をはじめるチャンスが生まれていたはずだ。日本政府と電力会社が原発に固執する限り、そのチャンスは生まれない。原発とともに、これら優秀な人材を適切に使わず、無駄にしているのと変わらない。


これは、日本の政治が電力会社のことは考えても、末端で働く人たちのことまで目が向いていない証拠だ。それによって、原発で働く人たちの将来まで奪っているといっても過言ではない。


経済とは、技術革新によって成り立っている。古い技術はいずれ、新しい技術に切り替わる。そうして経済は成長し、発展する。それを「創造的破壊」と呼んだのは、20世紀初期の経済学者ヨーゼフ・シュンペーターだった。経済成長概念の発案者だ。


技術革新による創造的破壊によって、雇用が失われてはならない。そのためには、事前に職業訓練することで、新しい技術に対応できるようにする。原発で働く人材のことを考えれば、福島第一原発事故後に労働者の将来のために、原発人材を新たに職業訓練することを考えてもよかったはずだ。


原発の人材は今も毎日、再稼働できない原発においてルーチンワークをしている。それが、経済成長なのだろうか。それでは、経済が停滞どころか、衰退するだけだ。


京都大学大学院経済学研究科の安田陽特任教授が換算されたところによると、これまで本サイトでも何回も取り上げた日本の第6次エネルギー基本計画において「原子力」というキーワードが、180回も登場しているという。「再生可能エネルギー」と「水素」に次いで、三番目に多い頻度だという。


これは、日本政府に頭の切り替えが起こっていない証拠だ。日本政府にとっては名目上、地方でこれまで通り雇用を維持するための政策なのだと思う。でも実際には、末端で働く人材の将来までは考えられていない。これでは日本に、技術革新による創造的破壊は起こらない。日本経済は衰退し、世界から取り残されていくだけだと思う。


でもそういうと、日本で働く人たちがとても哀れだ。働く人たち自身の将来、こどもたちの将来、日本の将来のために、日本にはこの停滞状態から脱皮してほしい。そのためには、今を変えなければならない。それが、「創造的破壊」を生み、経済を活性化させる。


再稼働しない原発においてルーチンワークを続けるのは、経済ではない。原発で働く人たちには、職業訓練によって新しい技術を身につけ、構造改革を引き起こしてほしい。


(2021年11月23日)
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関連サイト:
第6次エネルギー基本計画(素案)の概要(経済産業省/資源エネルギー庁)
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