2022年9月21日掲載 − HOME − 脱原発一覧 − 記事
核燃料は簡単に他社製に切り替えられるのか

前回、ヨーロッパでは東欧諸国の原発ばかりでなく、西欧諸国の原発もロシアからの核燃料、ウラン材料に依存している事実について書いた(「核燃料のロシア依存は問題ない?」)。


ドイツでは、野党保守政党(CDU/CSU)と与党自民党(FDP)が、ドイツの脱原発の期限を数年延期することを強く求めている。


ちょうど記者会見において、FDP党首のリントナー財務大臣に聞くチャンスがあったので、ヨーロッパの原発のロシア依存問題について聞いてみた。


ぼくは、東欧ばかりでなく、西欧の原発もロシアからの核燃料やウラン材料に依存しているが、ドイツで脱原発を数年間延期すると新しい核燃料が必要になる、その場合、ロシア依存は問題にならないのかと、聞いた。


すると大臣の返答は、簡単そのものだった。「別のメーカーから核燃料を購入すればいい」だった。


これは想像していた回答だが、大臣がいかに原発について何も知らないで発言しているのかを『披露』しただけの結末となった。ぼくは素人には、もうそれ以上聞いても仕方がないと、追加の質問をしなかった。


ドイツが深刻なエネルギー危機に直面しているにもかかわらず、まったく原発のことを知らないで脱原発の延期を求めるだけの大臣の無能さ、無責任さ、問題の重要さに対する真剣さの無さには呆れるばかりだ。


それはなぜか。


エムスラント
この冷却塔はガス発電所の冷却塔だが、そのすぐ向かいにエムスラント原発があり、その横に燃料集合体製造工場がある。ガス発電所は、廃炉となったリンゲン原発跡地にできたものだ

原発は、自動車やプリンターのように標準規格品で構成されているわけではないからだ。


ドイツでまだ稼働している原子炉は、ドイツ最新の加圧水型炉。「Konvoi」といわれるタイプだ。KWU社製だが、その母体はドイツのジーメンス社。その燃料集合体は、前回挙げたドイツ北西部のリンゲンにある燃料集合体製造工場(ANF)で製造されてきた。つまり、ロシアからの六フッ化ウランを使って製造された。


それに代わって、たとえば米国Westinghouse社製の燃料集合体を使えるだろうか。


そのまま使うことではできないが、WestinghouseがKonvoi用の燃料集合体を製造するのは可能なはずだ。


ただしそのためには、技術的なすり合わせ、検査機関による検査と許可、さらに試用期間が必要になる。原子炉によって、核燃料のウラン濃縮度、燃料集合体の技術仕様などが異なるからだ。まず安全性が、チャックされなければならない。


いくら使用が許可されても、試用期間なしにいきなり、他社が製造した新しい燃料集合体を使うことはできない。新たに製造されたものは、試してみないことには、うまく機能するかどうかわからない。


問題は、そのためにどれだけの時間がかかるのかだ。リントナー大臣は、脱原発を数年間延期すべきだと主張する。


リントナー大臣のいう数年後に、他社が製造した燃料集合体がドイツの原発ですでに使える状態になっているどうかの保証はない。ぼくはむしろ、無理だと思う。原子炉はそれまで、発電することはできない。使用できる核燃料がないからだ。


そのために、稼働できない既存原子炉を維持、保管しておく意味があるのだろうか。それでは脱原発を延期しても、エネルギー危機は乗り切れない。


リントナー大臣は、そのことをまったく理解していない。それで脱原発延期を主張すれば、単なるポピュリズムだ。


(2022年9月21日)
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関連サイト:
仏フラマトム社英語サイトの燃料集合体製造会社ANF社説明(ドイツ語)
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