2022年2月15日掲載 − HOME − 脱原発一覧 − 記事
フランスの原発増設は負け戦

フランスのマクロン大統領は2022年2月10日、フランスが原子炉を6基新設することを発表した。さらに8基新設することも検討しているという。最初の原子炉は2035年までに、稼働させたいとしている。


欧州委員会が、原子力と天然ガスを『持続可能』だとしてタクソノミー・リストに入れることを最終決定した(「欧州委、原子力と天然ガスでグリーンウォッシングを確定」)直後だった。


マクロン大統領は前年秋、「アジェンダ30」で原子力発電を推進することを発表していただけに、今回の発表は驚くほどのものでもない。


原子力を持続可能と分類し、原子力を促進することは、「アジェンダ2030」を発表する段階ですでにドイツ側と調整。当時のメルケル前首相の同意を得ていたものと見られる。


ドイツはその代わりに、再生可能エネルギーへの転換までに過渡的に必要となる天然ガスを『持続可能』とすることで、フランス側から了解を得た模様だ。


独仏がこうして、取引したともいえる。


独ネッカーヴェストハイム原発
ドイツのネッカーヴェストハイム原発。写真右のドームが原子炉2号機。ドイツでまだ稼働している原子炉3基のうちの1つだ。それも2022年12月31日までに停止される。ドイツはそれに伴い、脱原発を達成する

フランスは現在、電力需要の70%以上を原子力に依存している。この状況から、EUが目標とする2050年までに二酸化炭素の排出を実質ゼロとするカーボンニュートラルを実現するには、再生可能エネルギーだけに依存するわけにはいかない。短期に、再エネへのエネルギー転換を図るのはほぼ不可能だ。


ただフランスの原子炉の平均寿命は、約37年。かなり高経年化している。原子炉は原則として、寿命を40年として設計されている。フランスは自ら、原発を新設しなければならない状況に追い込んでいるともいえる。


マクロン大統領は、原子炉新設以外に、既設原子炉の寿命を延長することも検討するとしている。原子炉の寿命延長には、国際的に基準が設けられている。しかし既設原子炉において、金属疲労の状況などを明確に把握するのはほぼ不可能といっていい。


高経年化した原子炉を抱える国は、どこも同じ問題に悩まされている。日本もそうだ。


結局、安全性を無視して、原子炉の寿命延長を強行するしかない。


フランスは、巨大な原子力産業を抱えている。それだけに国内の雇用を維持するには、2011年のフクシマ後、経済的に大きな打撃を受けている原子力産業を維持せざるを得ない。短い間に、原子力依存から抜け出すことはできない。


マクロン大統領は、今年2022年4月に大統領選を控え、再選を目指す。改革を望まないフランス市民だけに、選挙前に大きな改革はできない。それが前年秋から、原子力を表に出してフランス産業を再建すると、強いメッセージを出している背景にある。


フランス電力(eDF)は並行して、米国ゼネラル・エレクトリック(GE)からフランス国内にある原発用タービン製造工場を買い戻すことでも合意した。同工場は、フランス原子力産業が低迷したことで、GEに売却されていたのだった。


原発で発電して利益を出すには、それ相応のメカニズム造りが必要なことをすでに書いた(「原発は資本主義では機能しない」)。フランス政府はそれに加え、原子炉新設にも莫大な補助を提供するものと見られる。


原発を維持するほか、さらに原発に投資すればするほど、電気はより高くなる。それに対し、再エネへの転換を図るドイツでは今後、電気がより安くなることが予想される。


電力料金の高低は、その国の産業競争力に大きく左右する。さらにこれまで通りの発電方法を依存するフランスと、再エネという新しい発電方法で、そのためのシステム化によって技術革新力を蓄積していくドイツ。


将来の国際競争力では、独仏の間でもう勝負が見えたといえる。フクシマ後にドイツの脱原発を決めたメルケル首相があっさりと、マクロン大統領のフランスの原発推進計画に同意したのもよく理解できる。


「マクロン大統領、原発を推進するのはフランス自身の問題ですよ。ドイツは関与しません。(でもこれで、勝負は決まりましたね)」と、メルケル首相はいいたかったかもしれない。もちろん、最後の文は口には出さなかったと思う。


(2022年2月15日)
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関連サイト:
フランスのアジェンダ2030のサイト(フランス語)
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