2022年8月11日掲載 − HOME − 脱原発一覧 − 記事
ドイツで、40%以上が原発新設を望むとはね

ドイツの政治雑誌『シュピーゲル(Der Spiegel)』が今年2022年8月はじめに行った世論調査によると、ドイツで原発支持が拡大している。その結果は、以下の通りだ。


「(2022年末で完結する)脱原発を2023年夏まで延期すべきか」
賛成:78%
わからない:5%
反対:17%

「(2022年末で完結する)脱原発を5年延期すべきか」
賛成:67%
わからない:6%
反対:27%

「エネルギー危機から原発を新設すべきか」
賛成:41%
わからない:7%
反対:52%

他の世論調査でも同じように、ドイツでは脱原発の延期派や原発新設の支持派が拡大している。


ドイツの旅行大手TUIの財団が16歳から26歳の若者を対象に行ったアンケート調査においても、若者たちの42%が、気候変動の問題を考えると、原子力を橋渡し技術として使うことが必要だと、原発を支持している。


ウクライナ戦争によるエネルギー供給の危機と気候変動が、原発支持派を拡大させているといえる。


ぼくはこれまで、ウクライナ戦争に伴い、ドイツにおける脱原発時期を延期すべきかどうかの議論について書いてきた。特に前回の記事「ドイツの電力業界にとり、原発はお荷物」において、原発問題やエネルギー危機問題を表面的に捉えて簡素化し、ポピュリズム的に世論が先導されていることを警告したばかりだ。


特にぼくには、原発新設を支持する人たちが半数近くにまで増えていることが、気にかかる。


汚染土バック
放射能で汚染された土などの入った黒いバック。福島県南相馬市で撮影

もう一つの問題は、調査する時の質問の仕方だ。たとえば前述したシュピーゲル誌では、ウクライナ戦争に伴うエネルギー危機と原発を結びつけている。その他、気候変動と原発を結びつけることもできるだろう。さらには、過去のチェルノブイリとフクシマの原発事故を結びつけることもできるはずだ。その場合の質問は、たとえばこうなる。


「チェルノブイリとフクシマで原発事故があったが、それでも原発を新設すべきか」


たとえば上の写真とともに、原発について質問したら、原発はいらないと思う人が増えると思う。逆に、エネルギー不足や気候変動と原発を結びつけると、原発が必要だと思う人が増えるだろう。


こうして見ると、世論は質問時点における社会情勢と大きく関係し、それに左右されるものだと思ったほうがいい。質問の仕方は、その時の情勢がベースになる。それは、当然の話だと思う。


現在の情勢からすれば、原発支持派が多くなるのはある程度予想された。しかしドイツにおいて、原発の新設を支持する人が41%にも上るとは思わなかった。ぼくの予想を遥かに超えていた。


この現実からすると、脱原発を決めたドイツ社会において、原発のことをよく知らないまま反対していた人が結構、多いのだろうとも想像できる。


だから、原発問題をポピュリズム的に先導している保守政治家やメディアに影響され、社会が原発をまだ維持したいと思うのだろう。原発を運転する電力会社でさえも、脱原発時期を延期したいとは思っていないにも関わらずだ。


その点で、世論調査の結果は一時的なもの。その結果には、そう左右されたくない。むしろ、社会情勢に影響されないように、原発に対して自分の考えをしっかり持てるようになるほうが大切だ。


ぼくが、原発に関して技術的にかなり詳細に説明するのは、できるだけ中立に原発の問題、実態を知り、原発に関して自分で考え、そこから原発に対する自分の考えを持てるようになってほしいと思うからだ。そのほうが、自分の考えはその時その時の社会情勢に影響されにくくなる。


今流行りのことばを使えば、原発に対する自分の考えが持続可能になるということだ。


原発の問題は、そう簡単に決着がつくものではない。その意味で、原発の問題に関する啓蒙運動もポピュリズムにならず、持続可能に続けて行く必要がある。


(2022年8月11日)
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