2023年12月07日掲載 − HOME − 脱原発一覧 − 記事
脱原発における独日の根本的な違い

ぼくはこれまで、ドイツで脱原発が可能となった要因を検証してきた。そして「日本でも脱原発できる」の記事において、日本でも脱原発できる可能性があると書いた。


ただドイツと日本において、脱原発を実現するための前提条件が同じではないこともはっきりと認識しておく必要がある。


それは、何か?


ドイツと日本において根本的に違うのは、ドイツでは政治が地方分権化され、経済も分散化されているのに対し、日本では政治も経済も中央集権化され、日本の原発立地場所において政治的にも、経済的にも原発への依存度が格段に高いことだ。


ドイツでは、原発の規制は国の法律である原子力法が基盤になっている。しかし同法の執行と原発の監視、監督は原発の立地州が行う。


州レベルでは、国の政権においてよりも政権交代の起こる確率が高い。国政レベルよりも、原発立地州において原発に批判的な中道左派政権が誕生する確率が高いということでもある。


これまでも中道左派政権下では、原発においてちょっとした事故が起こる毎に、原発が長い期間に渡って停止させられたことも多い。


ドイツで唯一許認可手続きの不備から裁判で廃炉となったミュルハイム・ケーアリヒ原発の場合、当時の州政府(ドイツのコール元首相が州首相だった)が原発建設を優遇しようとして、違法な許認可手続きを認めたからだった。


政治が地方分権化されていたことで、原発の建設と運用がよりコスト高になっていたのは間違いない。


その点で、原発の建設と運用において民主主義が機能しているともいえる。しかしドイツでは、日本において原発の立地する地元自治体の合意なくして原発が建設、運転されることがないので、日本のほうがむしろ民主的だと思われている。


ネッカーヴェストハイム原発
ドイツ南西部にあるネッカーヴェストハイム原発。写真は、ネッカーヴェストハイムの町役場前の道路から撮影した。向かって左側のドームが、2023年4月15日に最終停止した2号機。右側のドームは1号機で、2011年に最終停止した。1号機では現在、廃炉作業が行われている。

しかしそれはドイツにおいて、日本の原発立地自治体に莫大な資金が流れ、原発立地が『お金で買われている』ことが知られていないからでもある。


この原発立地自治体への資金援助が、ドイツと日本で大きな差があるところでもある。


ドイツでは原発が立地しても、地元自治体には営業税の増収と原発を保持する電力会社からの資金援助しか期待できない。


営業税はドイツでは、自治体に立地する事業者に課せられる税金で、自治体にとって最も重要な資金源となっている。


今年2023年4月15日に最終停止されたネッカーヴェストハイム原発のある自治体の町長によると、廃炉期間中も職員の人数に応じて営業税による税収が期待できる。町長はその間に、地元経済の構造改革を進め、原発の敷地跡に工業団地を設置するとしていた。


町長はそれとともに、町が原発の町から普通の町に戻っていくのだという見方をしていた。原発は、たとえば大手自動車メーカーや自動車部品メーカーの工場が地元にあったのと変わらなかったという。


原発が最終停止される毎にいくつかの自治体首長にインタビューしたことがあるが、いずれも政治が早く停止するかしないか決めてくれるほうがありがたい。そのほうが地元の経済を立て直しやすいからと、クールに答えていたのが印象に残る。


ドイツでは経済も分散化し、原発の立地する自治体の経済はそれほどべったりとは原発に依存してこなかった。だから、こうクールに答えることができたのだと思う。


それに対し、日本の経済は中央集権化され、大手企業の大規模工場を誘致できるかどうかに地元経済が依存している。そのため、大規模工場を誘致できるチャンスは限定されている。


産業誘致は、地元のインフラや労働者の質、技術開発力にも大きく依存する。その点で、原発立地自治体を脱原発後に構造改革するのは、ドイツほど容易ではない。


その点が日本で、自治体が原発にしがみつく大きな要因でもある。


日本で脱原発を実現するには、ドイツと違い、原発後の地元経済の再建について十分な施策を講じられるのかどうかが、地元の理解を得る上で重要なポイントになる。


この点は、日本において脱原発を実現する上で見逃してはならない。原発後に立地自治体を見捨てるのではなく、『普通の自治体』に戻れるように手厚い配慮が必要だということだ。


日本で脱原発を実現するには、この点を見逃してはならない。


(2023年12月07日)
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関連サイト:
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