ドイツは、総発電電力量に占める再生可能エネルギーの割合を2030年までに80%に引き上げる(2023年再生可能エネルギー法)。それを実現するため、関連施策が次々に法制化させていることは、これまでにも報告してきた(具体的には、以下の関連記事の欄を参照)。
80%という数字は、かなり高い。しかし目標の数字を見るだけでは、それが実際に、どれだけたいへんなことかは実感できないと思う。
そのたいへんさについては、「これまでの3倍のスピード」(「ドイツ経済相、気候保護政策はこれまでの3倍の速度で」)で再エネ拡大を実現しなければならないのは、ドイツ政府も自覚している。しかしそれも抽象的で、ピンとこないのではないかと思う。
ドイツにおいて現在、総発電電力量に占める再エネの割合は50%弱である。ドイツが本格的に再エネの拡大に取り組みはじめたのは、2000年。それからこれまで20年以上かかって、再エネの割合が50%弱になったばかりだ。しかし2030年まで、もう8年もない。それを本当に80%にまで引き上げることができるのか。
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ドイツ西部に位置するドイツ最大州ノルトライン・ヴェストファーレン州北部のパーダーボーンの南に、ドイツ最大級の風力発電地帯の一つがある。ここはドイツの風力発電でも、初期から風力発電が盛んなところだった。そのためこの地帯は、風力発電施設の博物館のようにもなっている |
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ここで、一つ忘れてはならないことがある。それは再エネの普及とともに、社会が石油や石炭などの化石燃料から脱皮して、すべて電気をベースに動くことになることだ。オール電気社会になるといってもいい。そのため、電気の需要が増える。
現在、ドイツの年間電力消費量は約600TWh。ドイツ政府はそれが、2030年には年間750TWhに増えると推測している。2030年に再エネの割合を80%にするとすると、年間電力消費が増えずに変化しなかった場合、再エネ電力は480TWh必要だ。だが電力需要が年間750TWhになるとすると、再エネ電力は年間600TWh必要になる。25%増える。
ケルン大学エネルギー経済研究所(EWI)が分析したところによると、2010年から2021年における再エネ発電容量における年間平均増加量は、陸上風力発電が2.9GW、太陽光発電が4.1GWだった。
それに対して、現在のドイツ政府の2030年目標を達成するには、発電容量は陸上風力発電で年間平均8.4GW、太陽光発電で年間平均17.4GW増えなければならない。2021年までと比較すると、風力発電が約3倍、太陽光発電が約4倍となる。
ただ再エネ拡大においては、再エネで発電された電力の固定価格買取制度による買取年数が20年であることから、発電施設の稼働年数が20年を超えると、発電施設が廃止されることも多い。実際2020年以降、再エネ発電施設が廃止されるケースも多くなっている。そのため前述の分析では、その問題も配慮されている。
たとえば陸上風力発電で、そのために1日に風車を何基設置しなければならないかを換算すると、これまでは出力3MW以下の風車を1日平均3.5基設置してきた。それに対してこれからは、出力4MW以上の風車を1日平均6基近く設置しなければならないという。
ドイツがここにきて急ピッチに再エネを拡大しなければならないのは、これまで16年間続いたメルケル政権が再エネ拡大に熱心ではなく、むしろブレーキをかけてきたからだ。そのツケを現政権が追っているともいえる。
とはいえ、気候危機の深刻さを考えると、再エネ拡大を目標通り実現しなければならない。その意味で、ドイツは崖っぷちに立たされている。その現実と事態の難しさは、ドイツ政府にもわかっているはず。
本当に、目標は達成できるのか。ぼく自身もそうしなければならないことはわかるが、達成可能かどうかは半信半疑だ。
(2023年3月12日)
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