これまでサイトでは、発電よりも暖房や給湯に必要な熱をどう脱炭素化するかのほうが難しいと書いてきた。
その中でも、大都市での熱供給を脱炭素化するのが特に難しい課題だ。
各世帯に、ヒートポンプを設置すればいいと思うかもしれない。しかしそれでは、電力の消費量が増えるだけ。さらにヒートポンプから出る熱は、夏の気温を上げる。
それは、夏に冷房がないと暮らせない日本でよりはっきりしている。エアコンが増えれば増えるほど、ヒートアイランド現象が顕著になる。エアコンは、一種のヒートポンプだ。
ドイツでは、地域毎に熱を集中供給する地域暖房熱供給システムが普及している。発電所の排熱をそれに利用すれば、電力と熱を並行して供給することができる。ただドイツの大都市ではむしろ、地区毎に地域暖房熱を供給するための大型の暖房熱施設が設けてある。
大型のボイラーを燃焼させて熱を発生させ、それを地下に埋設された配管を使って各世帯に熱を供給する。ボイラーの燃料となるのは、回収されたゴミや石炭だ。
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地域暖房用にボイラー燃焼施設から熱を供給するため、街の道路の下にこうして熱供給用配管を敷設する。真ん中に見える白い部分が配管の断熱材で、その中の黒い断熱材に包まれた細い管が配管。ドイツ南西部ラインラント・プファルツ州ジムマーンで撮影。ジムマーンでは、地元で回収された木の枝などの生物資源を熱を発生させるための燃料として使い、再エネ化、脱石炭化されている。 |
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ボイラーの燃料を脱石炭化すれば、熱供給の脱炭素化が加速する。ドイツでは2030年までに、地域暖房熱供給の65%を脱炭素化して、再エネによって行なわなければならない。
ドイツ最大の港町ハンブルク市では、2030年までに石炭の利用を止め、脱石炭化する計画だ。そのために、石炭を燃焼させて熱を発生させている大型の地域暖房施設を順次停止させる。
それに代わる熱源が必要だ。
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ハンブルク港近くにあるエネルギーパークで建設中の地域熱暖房供給システムの暖房配管用トンネル。トンネルは地下30メートルにあり、トンネル自体は1キロメートル余りとなる計画だ |
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ハンブルクではまず、港周辺にある石炭型の大型地域暖房施設2基が廃止される。それに代わって、港周辺にあるゴミ焼却場と工場から出る排熱を回収するほか、下水処理場のスラジ(汚土)を燃焼させるなど、港周辺で可能な熱がすべて港近くに設置されるエネルギーパークにまとめられる。熱は、港となっているエルベ川地下に建設される地域熱暖房熱供給用の暖房配管トンネルを経由して、ハンブルクの各世帯に分配される。
回収された熱は必要に応じて、再生可能エネルギーで発電された電力を使って製造された合成燃料(e-fuel)を使うコジェネレーションシステム(熱電併給設備)によって加熱される(発電出力:180MW+熱出力290MWth)。
取材した限り、想像以上に巨大なプロジェクトだ。それによって全体で18万世帯に熱を供給する予定で、熱供給世帯のある地区の道路に敷設される暖房用配管網を含めると、全体で7.6キロメートルの長さとなるという。
完成するのは、来年2025年の予定だ。
(2023年7月12日)
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