グリーン電力とは何か?(2)

2017年5月8日

読者B

 確かに「グリーンエネルギーであれば必ず FIT の恩恵を受ける」と間違えて思いこんでいました。これについては 2 つ確認したいことと,「FIT電力は、グリーン電力として扱われない」の最初のパラグラフで私は混乱しているので,その部分の質問があります。

 大企業の負担の例外などを除くと以下のようだと考えました。

* グリーンエネルギー

 グリーンエネルギーは再生可能エネルギ発電施設で生産されたエネルギーを言う。再生可能エネルギー発電施設かどうかは環境庁によって認定される。

* FIT 電力

 グリーンエネルギーであれば FIT の恩恵を受けることが可能である。

 しかし,生産側が恩恵を受けるかどうかを決める。

 そのためグリーンエネルギーであっても生産側で FIT の 恩恵を受けないと選択したものもある。

* 市場

 生産側で FIT の 恩恵を受けないと選択したもののみがエネルギー市場にでる。

 この FIT の 恩恵を受けないものだけ電源証明書がつく。

確認 1: FIT の恩恵を受けるものは市場での取引はされず,たとえば直接消費者との契約などで消費される。ということでいいでしょうか? 何も考えずに,全ての電力は電力市場に出て値段がつくと思いこんでいました。しかし,それでは矛盾が生じてしまいますので,こう考えました。

 電源証明書のついた電力には市場価値がある

確認 2: これは消費者がグリーンエネルギーを好むから,そう証明されたものに価値がつくためと考えていいでしょうか?(炭素税との関係などもありますか?)

 本文中で私にとって一つ不明な点は,以下の部分です。

 次に、送電網に供給された電力が再生可能エネルギーで発電されたグリーン電力であり、その電力量が消費者に供給された電力量と一致することを証明します。ここで注意しなければならないのは、ドイツにおいても、日本においても、固定価格買い取り制度(FIT)の枠内で再生可能エネルギーによって発電された電力が、市場では「グリーン電力」として取り扱われないということです。

 ドイツでは、この電力のことを「グレー電力」と呼んでいます(以下では、「FIT電力」とします)。電源表示義務のない日本では、**この電力**だけが「FIT」と表示されることになりました。

 最後の 2 つの「この電力」などの指すものが私にはあいまいになってしまいました。

   ドイツでは、この電力のことを「グレー電力」と呼んでいます(以下では、「FIT電力」とします)。

 この文での「この電力」は,再生可能エネルギーで発電されたグリーン電力だが,生産者が FIT の恩恵を受けないものとしたもの。しかしこれを「FIT電力」とするというのでしょうか? この定義はかなり私には混乱します。FIT の恩恵を受けない「グレー電力」を「FIT 電力」と呼ぶと読みます。

   電源表示義務のない日本では、**この電力**だけが「FIT」と表示されることになりました。

 ここの「この電力」は,先の文を受けて,「ドイツでのグレー電力」と読めます。つまり生産者側が FIT の恩恵を受けないとしたものです。FIT の恩恵を受けないもの「FIT」と日本では表示されるというのは正しいですか?

 FIT の恩恵を受けているものを FIT 電力とし,そうでないグリーンエネルギーを「グレー」と呼ぶのならわかりやすいですが,FIT の恩恵を受けていないグリーンエネルギーを FIT と呼ぶのはちょっとわかりにくいです。

2017年5月9日

読者B

 昨日の私の最後の質問は完全に反対に考えていました。ふくもとさんの文章を読み直せば,市場でのグリーン電力とは,再生可能エネルギー生産設備で作られた電力のうち,FIT の 恩恵を受けないものを言う市場でのグレー電力とは, 再生可能エネルギー生産設備で作られた電力のうち,FIT の 恩恵を受けたものを言うでまったく矛盾はありません。わかっていなかったようです。なぜかわかりませんが,FIT と言えば必ずグリーンだという思い込みがありました。

読者A

 またよろしくお願いします。本来なら全部を読んで質問すべきなのでしょうが、このページに引っかかってしまい、あまり先に進めません。あれから色々と考え、調べて次のような理解に至りました。間違っていたら、ぜひ指摘してください。

1)グレー電力

「ドイツにおいても、日本においても、固定価格買い取り制度(FIT)の枠内で再生可能エネルギーによって発電された電力が、市場では「グリーン電力」として取り扱われないということです。ドイツでは、この電力のことを「グレー電力」と呼んでいます」

 最初の方に上記のように書かれていますが、誤解されやすいというか、僕は「FITの枠内で再生可能エネルギーによって発電された電力がグレー電力と呼ばれる」と理解してしまいました。しかしグレー電力はドイツではグリーン電力の反対に位置する電力だと理解していたので、その辺から混乱が始まりました。

Der größte Teil der heutigen Stromerzeugung z. B. in Deutschland liefert keinen Ökostrom. Dieser Teil wird als konventionell erzeugter Strom bezeichnet, ebenfalls als Graustrom oder polemisch als Dreckstrom oder Schmutzstrom. (https://www.energie-lexikon.info/oekostrom.html)

2)ドイツの電力取引所で売買されている電力はすべてグレー電力として扱われている。。

ふくもとさんが市場と呼んでいる電力取引所にはグリーン電力というカテゴリーの電力はない。つまり、すべての電力はグレー電力として取引されている。オーストリアの市場にはグリーン電力というカテゴリーがあるそうですが。

An der Strombörse wird in der Regel Graustrom, d.h. nicht gekennzeichneter Strom verkauft.

3)ドイツでは電力取引所で取引されている電力量は全体の20%しかない。残りの80%は直接売買。

In Deutschland werden 80 Prozent des Stroms außerhalb der Börse (OTC) gehandelt. 

4)ということは、グレー電力とグリーン電力には一般的な定義と電力取引所での定義と違いがあると一度断っていただいた方が読者にはわかりやすいと思います。あるいは他の箇所で断っているのかもしれませんが、まだ全部を読んでいませんので、あしからず。

5)再生可能エネルギーの発電に占める割合は27%、供給される電力に占める割合は38%となっていますが、よくわかりませんでした。僕が謎解きに挑戦した結果、得られた結論は、FIT分担金を負担しない、2000以上の企業の消費を外して考えることだと思いましたが、それで正しいのでしょうか。

読者B

 質問についてですが,一番の疑問はグレー電力とグリーン電力の定義の違いがよくわからないということだと思います。いいでしょうか。

 この質問については,ML で指摘した通り,一章まるまるの説明が次の章にあります。

  市場においてグリーン電力とは何か

という章です。

 ふくもとさんの文章はお話になっていて論文形式ではないので,なぜこういうことを言うのかということを主題にして話がすすんでいきます。私にはそれがわかりやすく,興味を保てました。定義だけになるとそのような部分がなくなりますが,ここではあえて定義についてまとめなおしてみます。しかしこれは基本的にふくもとさんの文章を書き直しただけで,ふくもとさんの文章以上のものはありません。むしろ動機づけを除いてしまっている骨抜き版ですが,一方で定義だけは少しはっきりするかと思います。

1. (エネルギーと電力)

  エネルギーの話ですから,エネルギーとは何かですが,これは割愛します。

  電力とエネルギーの関係なども割愛します。しかしこれらが不明なまま議論するのはかなり不安です。人権について議論するのに,人権とは何か共通のコンセンサスなしで議論できるのかの不安と同様です。

2. FIT 電力

 FIT 電力とは,生産者が FIT の恩恵を受けることを決めた電力を言う。

  これは生産者の意思によって決まることに注意。(FIT の定義は割愛します。)

3. グリーン電力の定義 (仮)

  グリーン電力とは再生可能エネルギー発電施設で生産された電力を言う。再生可能エネルギー発電施設かどうかは環境庁によって法的に認定される。

注意: グリーン電力の定義については FIT との関係で再定義が必要。「グリーン電力」と呼ばずに,「再生可能エネルギー発電施設で生産された電力」と呼ぶ方が正確であり混乱が少ない。なぜならグリーン電力は後に再定義されるからである。実際ふくもとさんがグレー電力を説明している場所では「再生可能エネルギー発電施設で生産された電力」となっている。

4. グリーン電力とグレー電力の定義

4.1 FIT とグリーン電力生産者の関係

  グリーン電力生産者であれば FIT の恩恵を受けることが可能である。生産側が恩恵を受けるかどうかを決めることに注意。(つまり FIT だからグリーンかというのは基本的には関係ない概念である。だから FIT だからグリーンかどうかというのは私もそうでしたが単なる思い込みです。ここは私が最初にひっかかったところですので注意しておきます。FIT かどうかは生産者が勝手に決めることです。)

4.2 グリーン電力の再定義とグレー電力の定義

グリーン電力とは,3 の意味のグリーン電力のうち,FIT の恩恵を受けないものを言う。

グレー電力とは,  3 の意味のグリーン電力のうち,FIT の恩恵を受けたものを言う。  グレー電力とは、3 の意味のグリーン電力のうち,FIT のこれで言葉については私としてはすっきりしたつもりですが,しかし,ふくもとさんのように,なぜこういうふうな言葉があるのかという話がここにはまったくありません。私としてはなぜこうするのかのふくもとさんの話の方が面白かったですが,これとあわせて読まれるとどうでしょうか。

3 と 4 が定義と制度的に難しいと思うので,その定義の名前を変えられたらと思います。私にもし名前を変えて良い権限があれば,4.2 で,市場をつけて,市場グリーン電力とは,グリーン電力のうち,FIT の 恩恵を受けないものを言う。

  市場グレー電力とは,  グリーン電力のうち,FIT の 恩恵を受けたものを言うというふうにできたらいいかなと思います。まあこれは私の単なる思い付きです。

 これは骨抜き版なので,そもそもなぜこのように,市場グリーン電力と市場グレー電力があるかについての話がありません。ですから,やってみたらやはりふくもとさんの説明の方がいいと思います。

 そもそもなぜグレー電力があるのかなどは,この定義をふまえてふくもとさんの本文の方をご覧頂ければと思います。私にはなぜこんなにややこしくなっているのかという説明の方がずっと面白かったです。

2017年5月14日

筆者

 このメールからすると、誤解は溶けたようですが、以下の点について。

Aさんの質問については、ありがとうございます。Aさんには、後でメールしたいと思います。

* 市場

生産側で FIT の 恩恵を受けないと選択したもののみがエネルギー市場にでる。

この FIT の 恩恵を受けないものだけ電源証明書がつく。

確認 1: FIT の恩恵を受けるものは市場での取引はされず,たとえば直接消費者との契約などで消費される。ということでいいでしょうか? 何も考えずに,全ての電力は電力市場に出て値段がつくと思いこんでいました。しかし,それでは矛盾が生じてしまいますので,こう考えました。

 いや、FIT恩恵の有無に関わらず、エネルギー市場で取引できます。FIT恩恵のある電力は、エネルギー市場では原子力、火力発電で発電された電力と同等に取り扱われます。なので、グレー電力なのです。同等に扱われると、燃料費などの限界費用がないので、原子力や火力より安くなるのは他の項で書いています。

どちらについても、電気小売り業者が生産者と直接売買契約を結ぶこともできます。

電源証明書のついた電力には市場価値がある

確認 2: これは消費者がグリーンエネルギーを好むから,そう証明されたものに価値がつくためと考えていいでしょうか?(炭素税との関係などもありますか?)

 炭素税との直接な関係はないですが、考え方としては逆で、クリーンだということに付加価値を付けるために電源証明書を付けて、証書の取引をさせ、その収益が生産者に渡るようにしています。

 ただ何度もいいますが、FIT電力にはFITで付加価値が付いているので、非FIT電力には電源証明書を付けることで付加価値を付けたともいえます。

 こんな感じでわかりますか。

2017年5月15日

筆者

 SNBの勉強会で、大島さんが託送料のことでも一般の人にはわからないでしょうねとおっしゃっていたのを思い出します。

 ただそのほうがもっと簡単で、エネルギー市場のからくりはもっと複雑なので、わからないのは仕方ないと思います。

 ただエネルギーの議論をするには、ここを通っていかないことにはどうしようもないところもありますので、困ったなとは思いながらも一番最初に一番難しい問題と取り組まなければなりませんでした。著者としてはとても困ったのですが、それなりに簡単に説明できたのではないかと思っています。

 ただそれでもわからないといわれるのは、織り込み済みです。

 電力の小売り自由化の仕組みから理解していったほうがいいかとも思いますが、疑問のポイントはグリーン電力なのに市場ではなぜグレー電力なのだというところにひっかかりがあるのだと思います。これは、単にことばに対するひっかりでしかないと思いますが。

 その定義は、Bさんの書かれている通りです。

 ただそれでは骨抜きになるとBさんがおっしゃっている通り、なぜグリーン電力なのにグレー電力扱いするのだということがわかりません。

 再生可能エネルギーで発電された電力をすべてグリーン電力として取引すると、再生可能エネルギーで発電することによる負担をグリーン電力を供給してもらう消費者しか負担できなくなるからです。それでは、一部の消費者の負担ばかりが増えます。なので、その負担をもたらす原因であるFIT制度の恩恵を受ける電力を原子力や火力で発電された電力と同等に取り扱って、負担を広く分配するのです。

 だからこそ、再生可能エネルギーの普及によって電気料金が上がるわけです。

 その辺のからくりはわからないで、再生可能エネルギーの普及で電気が高くなると単に自動的に信じ込んでいる人がほとんどだと思います。

 本当は、グリーン電力を供給してもらっている人は少数派のはずなのに、なぜその人たちだけの電気料金が上がらないで、全体で電気料金が上がるのか疑問に思わないといけないのですけどね。

 そこでまず、ドイツにおいて(!!)再生可能エネルギーで発電された電力のうち、FITの恩恵を受けるものをFIT電力とし、FITの恩恵を受けない電力を非FIT電力としましょうか。

 ドイツの発電に占める再生可能エネルギーの割合はというと、ドイツで発電されたFIT電力+非FIT電力から出します。

 発電された電力は取引されます。それが電力市場です。でも市場というのは、単に卸電力取引所で取引される電力ばかりではありません。直接売買される電力も、市場の枠内に入ります。市場というのは、取引される全体です。

 FIT電力も非FIT電力も、卸電力取引所で取引されますし、直接売買もされます。ただ市場では、非FIT電力の中に輸入電力もありますので、注意が必要です。ただ、輸入されるグリーン電力は、他国のFIT電力でもあることは本文に書いた通りです。

 さらにドイツのFIT電力も非FIT電力も、他国に輸出することができます。その時に問題になるのは、ドイツのFIT電力はグリーン電力として取り扱われないので、ドイツからFIT電力を輸入すると、ドイツでのFIT負担を免除されることになります。FIT制度はドイツの国内制度なので。

 さらに、一般消費者に供給される電力には、30%余りのFIT電力が含まれると書いています。これは、あくまでも平均値で、小売業者がどうやって電力を購入したかによって小売業者の電力商品の間に微妙な違いがあります。

ただ、実際の再生可能エネルギーの割合が30%にならないのに、消費者の電力には30%以上の再生可能エネルギーが含まれているとするのは、大手企業がFITの負担を免除されているからです。それについては、本文でもはっきり書いています。

 これで、だいたいのことは理解いただけたでしょうか。

2017年8月13日、まさお

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