ぼくは、ドイツに30年以上暮らしています。でもいまだに、ドイツ語の「b」と「w」を区別して発音することができません。難しいのは「w」です。上の前歯を下唇の上において、「ブ」とお腹から息を出して発音します。それに対して、「b」は上下の唇を合わせて「ブ」といえばいいので、日本人には簡単です。「w」は日本語にはない音なので、つい「b」と発音しています。
それで困るのが、たとえば「Brust(胸)」と「Wurst(ソーセージ)」です。敢えてカタカナにすると、「ブルスト」と「ヴゥルスト」でしょうか。「ブルスト」のほうは「ル」に、「ヴゥルスト」のほうは「ヴゥ」に強さアクセントをつけます。それはわけっているのですが、「ヴゥルスト」といったつもりがつい「ブルスト」と発音していることがよくあります。
困るのは、レストランでたとえばソーセージを注文する時です。ドイツ語ではたとえば、「イッヒ メヒテ ヴゥルスト(Ich möchte Wurst)」といいます。ここで発音を間違えて「ブルスト」といってしまうと、「ソーセージください」ではなくて、「オッパイください」になってしまいます。「あなたの」がついてないだけいいですが、注文を取りにきたウェイトレスさんが赤面してしまいそうです。そう思ってしまうのは、エッチなおじさんの淡い期待なのかなあ。これは、女性軽視ですね。反省します。
外国での生活が長いと、このようにことばの問題でいろいろ失敗を経験しています。先日も、自分では「ギムナジウム(Gymnasium)」というつもりが「ギムナスティーク(Gymnastik)」といっていました。相手のドイツ人は何をいいたいのかわからなくて、キョトンとしていました。前者が「日本の中高校に相当する大学入学資格を取得するための中等教育学校」で、後者は「体操」という意味です。辻褄が合わなくて当然です。
こういった珍談は、数えきれません。
外国に長く暮らしていると、現地で話す外国語ばかりでなく、母国語の日本語も変になっています。日本語でうまく表現できなかったり、正確な表現を忘れていたり。日本語自体が乱れています。何でも、「あれ」とか「それ」で済ませてしまうこともあります。親しい日本人同士だと、それで通じてしまうのも問題なのです。
そんな変な日本語でも、日本人同士で話せば日本語は日本語なのです。ふと口に出したことばが、とてつもなく変な珍語だったりします。後で気付いて、思わず爆笑。赤面してしまったという経験は、外国に暮らしていると誰にでもあると思います。
ぼくは長い間、ドイツ暮らしの長い日本人が日々の生活の中で「創作」した変な日本語を聞いては、「珍語」としてメモしてきました。あるいは、「珍語」を体験した人からそれを教えてもらってきました。それを、このホームページで順次公開してきました。
それが、もう50以上にもなりました。これを機に、いくつかの珍語に流水彩子さんのイラストをつけることになりました。
珍語は、実際に話されていた会話の形で紹介し、珍語の部分をカタカナで表記しました。それを五十音順に並べてあります。
これは、冗談や作り話ではありません。すべて、実話です。
読者のみなさんもおもしろい珍語を聞いたら、編集部にお知らせください(info(a)taiwakobo.de)。おもしろい珍語を待っています。 |