送電網整備のコストは社会コストだ

 第2章で書いたように、ドイツではエネルギーを風力、太陽光などの再生可能エネルギーに転換することで、送電網の整備が重要な課題となっています。本文では、まずそのためにドイツでは約3兆円必要だと見積もられていると書きました。

 とてつもない高額の経費です。

 送電網の整備が必要になっている一つの大きな要因は、ドイツ北部の北海とバルト海でしか実現できない洋上風力発電です。そこで発電された多量の電気を南部に送電しなければなりません。そして、その洋上風力を進めるのは、洋上風力のように莫大なコストのかかる大きな設備を建設しないと大手電力が再生可能エネルギーに進出できないからです。

 本来、再生可能エネルギーは小型の発電設備を分散させ、地産地消するのが基本です。でもそれでは、大手電力がビジネスできません。送電網整備に莫大な投資をしなければならないのは、大手電力の救済措置だともいえると思います。

 もう一つ。鉄道や道路、空港は公共性があるからと、そのために国の予算から莫大な助成金が出されています。たとえば鉄道には、日本では毎年1500億円前後の助成金が出されています。たとえば新幹線網の整備には、これまでたくさんのお金が税金から出されてきました。さらに現在、採算性の見込みのないリニアモーターカー専用線の建設もはじまっています。

 道路においては、地方でまったく必要ない道路がたくさん建設され、そのためにたくさんのお金が助成されています。地方には建設業以外に産業がないので、土建業のために税金を出しているということです。

 高速道路も整備されてきました。それに伴い、高速で走る自動車も開発されてきました。その恩恵を受けてきたのは誰でしょうか。自動車メーカーです。

 空港にも、同じことがいえます。

 しかし、鉄道や道路、空港に税金から投資することに反対する声は、小さいのではないでしょうか。でも送電網と比較すると、どちらが公共性が高いのでしょうか。電力市場が自由化され、さらに自宅の屋根に太陽光パネルを設置して発電された電力を公共送電網に供給する市民が増えています。それを考えると、送電網の公共性は益々高くなっていくと思います。

 もう一つ考えてもらいたいのは、直接助成はされていないが、間接的に助成されているか、単に一般市民の負担になっているだけのコストです。

 道路が整備されて、自動車が増えています。同時に、それによる公害も増えています。その結果、ぜんそくなどの病気が増えています。そのコストは、一体誰が負担しているのでしょうか。国か一般市民です。

 こういうコストを社会コストといいます。社会コストは、実際の経済活動とは直接には関係ありませんが、経済活動の結果として発生する影響に対してコストが発生します。それが社会コストです。社会コストは、経済活動に対する隠れたコストだといっても過言ではありません。でもそのコストは、経済界は負担しません。

 福島第一原発の大惨事のコストは誰が負担しているのでしょうか。表向きは東電です。でも東電が国営化されている以上、そのコストは国家予算、つまりは納税者負担です。

 こうしてぼくたちは、社会コストという経済活動の隠れたコストを負担しています。

 でも、エネルギーがクリーンな再生可能エネルギーに転換されていくにしたがって、公害やその他の災害によって発生する社会コストは減っていきます。

 ぼくは、公共性の高さを考えると、送電網整備のコストはエネルギーをより広く市民のものにするための社会コストだと思います。なので、送電網の整備に莫大なコストがかかるからと単純に再生可能エネルギーに反対する意見は、理にかなっていないと思います。

 さて、みなさんはどう思いますか。

2017年12月10日、まさお

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