電力統計データの真相

 先日、ドイツの再生可能エネルギーの割合が40%を超えたと、ドイツから発信されているある日本人のブログに書いてあったということを聞きました。

 ぼくの知っている統計データでは35から38%だったので、その違いはどこからくるのか疑問になりました。ぼくは、再生可能エネルギーの割合が40%を超えたとするのはちょっと過大評価ではないかと思いました。

 ブロガーのデータは、フラウンホーファー・ソーラーエネルギーシステム研究所(ISE)という公的な研究機関が今年1月2日にニュースレターで発表した2018年の推計データでした。間違いはありません。

 それに対しドイツ電事連(BDEW)は、昨年クリスマス前の12月13日のプレスリリースで、2018年における再生可能エネルギーの割合を38%と発表しています。さらに12月19日のプレスリリースでは、二酸化炭素の排出量に関連した記事において2018年の再生可能エネルギーの割合を35%だとしています。

 38%はドイツ政府が再生可能エネルギー進捗状況のモニタリングを委託している研究機関の一つバーデン・ヴュルテムベルク太陽エネルギー水素研究センター(ZSW)とドイツ電事連が共同で推計したデータ、35%はドイツ電事連が推計したデータです。

 この違いは、どうして生まれるのでしょうか。

 ぼく自身も、電力に関する統計データを見る時にいつも気をつけている問題です。

 フラウンホーファー研究所のデータは、2018年1月1日から2018年12月31日までの独ライプツィヒ電力取引市場のデータをドイツ統計庁の2018年1月1日から2018年9月30日までのデータで補正し、残りを独自に推計して補正したものでした。電力取引市場のデータを使ったということは、電力が送電網に供給された電力量をベースにしています。

 これを、純発電量といいます。純発電量では、送電網に給電された電力量しか把握されません。発電された電力をそのまま自分で使った場合、その電力量が把握されていないということです。たとえば火力発電所や原子力発電所など大型発電所では、自分で発電した電力が発電所内でも多量に使われます。製鉄所などの大工場でも、工場内に発電所があり、発電された電力が工場内で消費されます。

 こうした自社発電自社消費した電力量は、ドイツのメディアによると、産業界全体で総発電量の10%に相当するといわれます。ただその分には、再生可能エネルギーがほとんど含まれていません。

 ということは、純発電量においては再生可能エネルギーの割合が必然的に高くなります。再生可能エネルギーの普及に伴い、自分の家で発電した電力を自分の家で消費する割合も増えています。しかし、その量はまだ少量です。

 それに対してドイツ電事連の35%は、総発電量を把握したものでした。つまり、発電されたすべての電力量を推計したものです。総発電量と純発電量で5%以上の差が出たことになります。

 それでは、ドイツ電事連の38%という数値は何を意味するのでしょうか。

 これは、総電力消費量における割合です。電力消費量で問題になるのは、ドイツが電力輸出国だということです。輸出された電力は、消費電力に属します。ただこの輸出国とは何を意味するかについても気をつけないといけません。

 ヨーロッパ大陸では、送電系統が連系されています。そのため、各国はお互いに電力を常にやり取りしています。たとえばドイツでは、北部で発電された電力はドイツ南部に送電するよりも、東西の隣国に送電したほうが送電距離が短いので、電圧が下がりません。

 ですから、各国は電力を隣国に輸出したり、輸入したりしています。ある時間帯には輸出国であっても、別の時間帯では輸入国であったりします。輸出国とは、年間を通した総電力輸出量が年間の総電力輸入量を上回ることをいいます。

 輸出された電力には、実際にはすべての電源で発電された電力が含まれているはずです。夜間風力が強いと、風力発電で発電された電力が輸出されている可能性があります。そうでない場合は、火力発電や原子力発電された電力が輸出されている可能性があります。

 でもヨーロッパでは統計上、輸出電力に再生可能エネルギーで発電された電力が含まていないことにすることで約束されています。

 ということは、ここでもどうしても再生可能エネルギーの割合が高くなります。

 電力統計には、さらにもう一つの問題があります。

 ドイツ電事連は、3カ月毎に電力統計データを発表します。そして年間のデータを把握するまでに、3カ月データ、6カ月データ、9カ月データ、12カ月データとデータ把握期間を増やしていきます。でも、再生可能エネルギーは天候に影響されやすいので、季節毎の変動が大きいという問題があります。そのため、前年同期との比較も発表されますが、これら中間の統計データは、あくまでも目安として見ておくべきだと思います。

 年間の統計データは、後で修正されます。中間統計データと年頭に発表される年間統計データは推計値です。推計値はその後修正されますが、再生可能エネルギーの割合は修正値においては、多くの場合下がります。

 電力の統計データには、こうした問題があることを知ってもらいたいと思います。再生可能エネルギーの割合の動向を知りたい場合は、定点観測することが大切だと思います。常に、同じところから発表されるデータを追いかけるということです。

 ぼく自身は、政府のモニタリング統計とドイツ電事連の統計を見るようにしています。

 なおドイツ政府は現在、再生可能エネルギーの割合を2030年までに65%に引き上げることを目標にしています。これは、総発電量における割合を意味します。

2019年1月06日、まさお

この記事をシェア、ブックマークする

 Leave a Comment

All input areas are required. Your e-mail address will not be made public.

Please check the contents before sending.